桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第1回】

『長い坂』山本周五郎

開催日時 2005年4月23日(土)15:00~17:00
会場 東京都豊島区北大塚

開催。諸々コメント。

記念すべき第一回目の作品は山本周五郎作『長い坂』を取り上げました。
『長い坂』は、とかくサクセスストーリーのように言われたり、 企業で働くビジネスマンの指南書のような、いわゆるビジネス本のテーマになったりしていますので 本のタイトルだけは知っているという方も多いと思います。
山本周五郎が描き出している三浦主水正の姿はあまり伝えられることがないのではないかという 気持ちもあって、今回のテーマに取り上げました。

下記の「ディスカッションにのぼった主なテーマ」にも記載しましたとおり、 様々な視点で読み込むことができ、私達の生き方にも大いに示唆を与えてくれる一書だと思います。
全体のテーマをしっかりと抑えながらもひとつひとつ疑問に思ったりやそのとおりだなと感じた点を 話していると2時間が経過していました。
参加した方からは、もっとじっくりと語り合いたいと感じていただけたようで 「次回も必ず参加します」という声を寄せていただきました。
また「もう一度『長い坂』の続きを」という声もありました。少し検討してみたいと思います。 しばらくは広いジャンルから取り上げたいという意向もありますので様々悩むところです。

物語のあらすじ

物語の主人公は、下級武士(徒士組頭)の息子、三浦主水正(幼名・阿部小三郎)。
8歳のある日、父親と一緒に釣りに出かけたときにいつも通り慣れていた道に架かる橋が取り壊されていた。 藩の重臣の息子の学問所を建てることになり、この道を人が通ると学問の邪魔になるため 通行できないように取り壊されたのであった。
ずっとあり続けることに疑問を抱くことさえなかった橋がなくなってしまった。 卑屈と映った父の態度。幼き日の主水正の心に衝撃が走った。言葉にはうまく言い表すことができない感情。 しかし自分の内部に「何か」が生まれた。その人生の原点ともいうべき感情を忘れることなく 主水正は自分の人生を突き進むように走りはじめる。
10歳で上級武士の子息が通う尚功館にあがる。学問所以外でも自ら学んだ。 剣術も猛烈に稽古した。重臣の子息からのいじめや制裁を乗り越える。
15歳で藩主昌治の御小姓にあげられる。城代家老の剃刀役で元服する。
重臣山根家の娘を嫁にもらい途絶えていた三浦家の家督を継ぐ。
郡奉行付き与力、町奉行与力、勘定方改め役と藩政の重要な現場を経験し その立場立場で改革を断行していく。
そして暗殺の危機から起死回生の逆転劇で再び表舞台へ躍り出る。

常に羨望と嫉妬誹謗といういたたまれない状況の中を主水正は敢然としかも淡々と 自身の決めた道を歩いてきた。
地道に積み重ねてきた経験と知識を活かし大火災発生時の緊急復興を見事成し遂げ、 しかも名声を得ようともしない。教育と福祉の魁ともいうべき藩財政のからくりに気づき 後生の伏線を敷く。
悲願ともいうべき井関川の堰堤工事。
荒地の開墾、武士と農民の存在意義。
被災孤児たちのための私財を投げ打っての寺子屋の創設。
藩主すり替えの謀略と内紛劇、そして藩主昌治による見事な復活劇。
拾わなかったつるの鞭。
大造をはじめとする山小屋の者たちの関わり合いは庶民の目線で物語に深みを与える。
実の父母、兄弟への説明のつかない理不尽な感情と行動。 自身の生い立ちと生家に対する複雑な思い。 ななえ、つるといった女性達との愛憎劇も見逃せない。
とくにつるとの反目、確執、自虐行為を乗り越えて、愛情溢れる生活への変遷は感動的である。
社会正義に熱い篤志の同志、恩師であった人達がことごとく身を崩していく人生の終焉には悲哀さえ感じる。 しかしこれが現実の世界なのかもしれない。
自分の何気ない行為がまわりの人を傷つけていたことを後になって知る苦々しさ情けなさ。 Etc…。
そんな様々なストーリーが絡み合いながら主水正は城代家老へと上り詰めていく…。
生き急ぐように坂を駆け上がってきた主水正の人生。そのとき彼は38歳。最後のシーンで主水正はつぶやく。
「ここは坂だったのか」
「おれの前にはもっと嶮しく、さらに長い坂がのしかかっている」
「そしておれは死ぬまでその坂を登り続けなければならないだろう」

話題に出たテーマ等々。

・『長い坂』を貫くテーマ、メッセージとは?
・拾わなかった「つるの鞭」が持つ意味とは?
・果たして『長い坂』はサクセスストーリーなのか?
・人生は連続して登り続ける長い坂なのか?それとも?
・自ら選んだ坂を登る人生。登らない人生の選択はあるか?
・三浦家の愛情溢れる家庭は突如として現出したのか?
・善と悪とは完全に二分できないということの持つ意味
・志高き人々が悉く身の持ち崩す終焉が語るメッセージ
・主水正の矛盾する生き方に見る現実の人生とは
・主水正が師事または苦楽を共有する人物不在の是非
・最後のシーンに見る自他の評価の格差と結果と持続の力

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