桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第4回】

『ペスト』(アルベール・カミュ Albert Camus)

開催日時 2005年7月30日(土)15:00~17:00
会場 東京都墨田区八広

開催。諸々コメント。

カミュの不朽の名作と呼ばれている『ペスト』。
日本ではカミュといえば『異邦人』が有名で、不条理の世界を描いた作者として知られています。
第2次世界大戦中に華やかな文壇デビューをし、戦後1947年『ペスト』で世界的な評価を得ます。しかしその後、地元の政紛に際して明確な立場を表明しなかったことや、サルトルとの論争によって活躍の場を失っていったとされています。

そのような逆境を乗り越えて『反抗的人間』『転落』などの作品を発表。1957年、44歳という異例の若さでノーベル文学賞を受賞。しかしその3年後、不慮の交通事故で若くしてこの世を去りました。

『ペスト』が老若男女、地域や生活習慣、信仰の違いを越えて読み続けられているのはなぜか?そのひとつの答えとして日本語翻訳者の宮崎嶺雄氏は「この作品の簡潔なリアリズムが、さまざまな角度からきわめて明瞭な象徴性をもっていて、読者の一人一人がその当面の関心を満足させるものをそこに見出しうるからだ」と分析しています。

カニュは『ペスト』の最後をこう締め括ります。
「ペスト菌は決して死ぬことも消滅することもないものであり、数十年の間、家具や下着類の中に眠りつつ生存することができ、部屋や穴倉やトランクやハンカチや反古のなかに、しんぼう強く待ち続けていて、そしておそらくはいつか、人間に不幸と教訓をもたらすために、ペストが再びその鼠どもを呼びさまし、どこかの都市に彼らを死なせに差し向ける日が来るであろうということを。」

もちろんペスト菌が家具や下着の中で何十年も生き続けることなどありません(クマネズミ等の齧歯類やその血を吸ったノミ、感染者の血痰等によって伝染する)。
カミュの生存した時代であってもそのような風説はなかったものと思われます。
ということはこの部分は明らかにペスト菌を何かに例えていると見るのが妥当でしょう。

『ペスト』を通して、突如としてあらわれる災難(それが本当に突如なのかという因果も含めて)をいかに見極め、最も過ちのない対処をすることができるのか。
正邪を見抜き行動することの必然性を今一度見直す機会とできればと思います。

物語の舞台・登場人物

フランス領アルジェリアの港町オラン
194*年の4月から翌年2月までの約10ケ月間

主な登場人物

ベルナール・リウー:医師。妻が一年前から病気のためオラン市外の療養所へ行く。
ミッシェル老人:リウーの診療室がある建物の門番。
リウーの母(リウー夫人):ベルナールの妻が不在のためオラン市外から息子の面倒をみるため滞在に来る。 レイモン・ランベール:パリの新聞社に記事を書くためにオランを訪れた新聞記者。恋人がいる。
ジャン・タルー:リウーの診療室がある建物で出会う。数週間前から市内の大ホテルに滞在。「タルーの手帳」。
パルヌー:イエスズ会の神父。司祭。
ジョセフ・グラン:フェテルブ街に住むリウーの患者。市役所に勤める50歳がらみの吏員(非常勤)。
コタール:グランと同じアパートの住人。自殺を図りグランに助けられる。リウーの手当を受ける。密売等をして警察に追われている。
オトン:判事。息子をペストで失う。妻と隔離施設で数ヶ月を過ごす。

冒頭の数日

この作品の簡潔なリアリズムが、さまざまの角度からきわめて明瞭な象徴性を持っていて、読者の一人一人がその当面の関心を満足させるものをそこに見出しうるからだ
(アルベール・マケ)

日付 できごと
4月16日 診療室の建物で鼠の屍骸1匹
4月17日 診療室の建物で鼠の屍骸3匹
4月18日 診療室の建物で鼠の屍骸10匹 オラン市として50匹の屍骸を確認  ある工場では数百匹という話が出る 夕刊紙が取り上げる  市庁は具体的には何もせず  会議に集まって評定することを始める
4月25日 報知通信社が6231匹の鼠収集と焼却を報道
4月28日 報知通信社が8000匹の鼠収集を報道
4月29日 報知通信社・この現象がぱったりとやんだと報道  鼠害対策課・問題に足らぬ量の鼠の屍骸を収集したにすぎないと発表  リウー・正午に門番ミッシェルがうなだれている姿を見る。首と腋の下と鼠蹊部に激しい疼痛  夕刻39度5分の発熱、頸部リンパ腺と四肢の腫張、脇腹に黒い斑点2つ
4月30日 リウー・門番ミッシェルの隔離を指示、搬送中に死亡  最初の死亡被害者

物語の流れ

【1】 医師リウーの観察
【2】 タルーの手帳
【3】 2人の伝記(ある人生の来し方)
 ・ ジョゼフ・グラン
 ・ ジャン・タルー

登場人物の類型

【1】 事件を通して大きく生き方を変革した(された)人達
・ キリスト信者パルヌー
・ オトン判事
・ 新聞記者レイモン・ランベール
・ コタール
【2】 事件を通して一貫した生き方を貫いた人達
・ ベルナール・リウー
・ ジャン・タルー
・ ジョセフ・グラン

ディスカッションの主なテーマ

・『ペスト』が発表された時代
・『ペスト』に託されたカミュの真意とは
・多くの人に支持された理由は何か
・ペストを認めるまでの市長(市庁)の動き
・市内封鎖になってから以降の市民の心の動き
・埋葬に関わる心の変化
・隔絶された集団内での共感心理と更なる差別化が行われる心理変化
・ランベールのとった行動の普遍性
・タルーの独白の意味するもの(P.363)
・ペストの意味するもの
・「ペスト菌は決して死ぬことも消滅することもない」とは
・カニュの不条理の思想
・タルーの死に際してとったリウー親子の行動
・コタール的人間への評価
・パルヌー神父の変化の意味するもの
・真実を認めないこと、虚言が広まることの危うさ
・私たちにおけるペストとは  等々

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