桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第21回】

『夕鶴』(木下順二)

開催日時 2006年12月23日(土)14:00~16:00
会場 東京都練馬区東大泉 ※西武池袋線・大泉学園駅から徒歩10分

開催。諸々コメント。

「夕鶴」「子午線の祀(まつ)り」などで知られる日本の戦後を代表する劇作家・木下順二(きのした・じゅんじ)氏が今年10月30日にご逝去。
今回取り上げる「夕鶴」は民話で語り継がれている鶴の恩返しをモチーフに木下順二なりのテーマを元に描かれている。
山本安英(やすえ)さんによる演劇で非常に有名になった。学校の演劇や放送劇などで取り上げられることも多かったように記憶している。国語の教科書にもよく載っていたので、何かの機会に触れた人も多いのではないだろうか。
日本古来の伝承民話を題材にした木下順二作品を今一度読み返してみました。

当日の様子など

山本安英さん主演、木下順二演出による公演を収録したカセットテープを佐藤秀男さんに持参していただき、いくつかの場面を拝聴しました。
文章を読むのともまた違った新鮮な印象とともに、それぞれが抱いていた印象と異なる部分もあり大変興味深かったです。秀男さんありがとうございました。

木下順二氏が直接目にした「鶴女房」も全員で読み確認しました。
順二氏自身も繰り返し述べているように、この「夕鶴」は民話劇というよりも鶴をモチーフにした全く違う作品と位置づけることが相応しいと思います。
明らかに民話伝承ではなく、木下順二氏の思想的な個人的見解が登場人物のせりふになっていると思われる箇所がいくつか現れます。

少年少女時代に一度は読み、耳にした作品であると思われますが、なぜこの作品が教科書等に取り上げれられていたのかという点については賛否を含めて様々な意見が交わされました。
与ひょうの純粋なこころを愛したがゆえに鶴はつうとして一緒に暮そうと思い、それができないがゆえに与ひょうのもとを去った。
そのシナリオは鶴の恩返しではなく愛情物語でしょう。それはそれでひとつの小説でもありますが、鶴が恩を感じてその恩に報じようとすること自体はそれはそれで美しい行為だと私は思います。
交わした約束を守れずに鶴であることの秘密を知ってしまった与ひょうとそれゆえに去っていくつう。
世界各地の民話伝承や童話によく登場する秘密の暴露もしくはのぞくという行為。そこには真実を知るということに対極にある真実への秘密性、不可蝕性があるようにも感じます。
お金の話を始めるとつうは聞こえなくなるシーンや二人だけで生きていってほしいと与ひょうに懇願する言葉に木下順二氏はどのような思いを託したのでしょうか。
全面的に賛同できるわけではない作品と取り組むことによって、さらに思索が広がることを感じた一冊でもありました。

作者

木下順二 1914(大正3)年8月2日~2006(平成18)年10月30日。
作者の木下順二(きのした・じゅんじ)さんは今年(2006年)10月30日に92歳の長寿を全うされ逝去されました。
民話劇の魂をうたい、戦争責任と人間のモラルを厳しく問い、天空から人の営みと運命を見つめる壮大な叙事詩劇に到達した戦後新劇の良心と讃えられた。
東京・本郷の生まれ。少年時代から旧制高校までを熊本で過ごす。
東京大学英文科卒。戦時中に「彦市ばなし」などの民話劇を書き始め、そのうちの一編「鶴女房」を戦後改稿して「夕鶴」となった。
49年に女優の山本安英さん主演で「ぶどうの会」が初演したこの作品は、86年まで全国で1037回上演された。
民話劇と並行し、「風浪」(47年)、「山脈(やまなみ)」(49年)、「沖縄」(63年)など歴史の中の人間を描く現代劇も相次いで発表。
70年代も、東京裁判とBC級戦犯を描く「神と人とのあいだ」2部作(72年)、「平家物語」を踏まえた大作「子午線の祀り」(78年)を発表。
また、シェークスピア劇の翻訳にも取り組んだ。
93年に山本さんが死去して以降、「夕鶴」の国内上演を断っていたが、97年に坂東玉三郎さんの主演で再演された。
今年4月、劇団民芸が「神と人とのあいだ」第1部「審判」を36年ぶりに再演。
78、84年度の読売文学賞、85年度の朝日賞。民間の賞は受けたが、国の賞や勲章は固辞し、84年に芸術院会員に選ばれた時も、「一介の物書きでいたい」と辞退した。

『夕鶴』を執筆した時代

1937年 7月/盧溝橋事件
1939年 5月/徴兵検査 11月/『風浪』の原形を書上げる
1940年 3月/入営するが左肩故障が認められて即日帰郷 8月/新築地劇団、新協劇団が解散
1942年 召集令状届く
1943年 2月/ガダルカナル島撤退 「佐渡昔話集」から『鶴女房』を劇化
1944年 6月/サイパン島陥落
1945年 8月/敗戦
1946年 8月『二十二夜待ち』12月『彦市ばなし』発表
1948年 11月『夕鶴』執筆
1949年 1月『夕鶴』3月『山脈(やまなみ)』発表
1950年 朝鮮戦争

話題に出たテーマ等々。

木下順二氏の経歴
戦中戦後の時代背景と創作にとりくむ思想的バックボーン
木下順二氏が作り続けた民話劇
民話劇最初の作品『鶴女房』
群読(ぐんどく)のきざし
民話「鶴女房」をモチーフにしながら異なった物語『夕鶴』
・ 人間の女房になる鶴を、はっきり山本さんのものとして書きたい
・ 単なる報恩譚としたくない
・ 本当のものを見分ける精神
東北、新潟を中心に伝わる口承民話「鶴女房」「鶴の恩返し」
・おじいさんおばあさんのパターン
・家族3人のパターン
・鶴がその姿のままで布を織り始めるパターン など多彩
二つの日本語のあり方と言葉が通じない異質な世界
民話に現れる「覗く」行為
つうはなぜ与ひょうのもとに来たのか
与ひょうの心の変化
つうの心の変化 など

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