桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第94回】

『武士の家計簿』(磯田道史)

開催日時 2013年2月16日(土) 14:00~17:00
会場 石神井公園区民交流センター 会議室(2) 西武池袋線石神井公園駅・徒歩1分

開催。諸々コメント。

筆者の磯田道史氏は文学部史学科での学問を修めた歴史研究家、日本文化の研究者です。
新潮新書から発刊されているノンフィクションジャンルの本です。
2010年に森田芳光監督によって映画化された作品でもあり、原作は時代小説だと思っている人も多いと思います。そのような経緯もあって「どんな分野の本ですか?」と聞かれて答えにくい不思議な作品でもあります。
筆者である磯田道史氏が神田神保町の古本屋で「金沢藩士猪山家文書」と出会いこの作品が生まれました。
猪山家は代々加賀藩前田藩主に仕えてきた御算用者の家系。平たく言えば加賀藩の会計を与かる会計係を努めてきた系譜です。この猪山家の個人的な家計簿とそれに関連する書簡等が平成13年夏に古文書として売りに出され、磯田氏が購入。これらの文書を整理分析する中で本書が誕生したわけです。
武士の個人的な経済的な側面というのは今までほとんど記録が発見されていません。「武士は食わねど高楊枝」等の言葉に象徴されるように、金儲けにつながる算術は賤しいもの、身分の低い町民の生業であるという考え方も定着しており、本書で紹介されているように算術を全く教えない藩校も存在していました。
しかし武士も人間。飯を食わなければ餓死もする。貧すれば借金もする。
武士の世界にも経済活動が厳然と存在していたわけで、組織としてその役割を担っていたのが御算用者でした。
その公的な職責にあった猪山家の個人的な家計がどうなっていたのか。
そこから見えてくるものは何か。
これが本書の中心的なテーマになっています。

猪山家の家計簿は、1842(天保13)年7月から1879(明治12)年5月まで約37年間の記録が残っています。途中の欠落はわずか1年分ほど。そこからは幕末から明治維新という近代日本の激動期を生きた武士、維新後は士族と呼ばれた人達の生活の様子が浮かび上がってきます。
本書は猪山家の家計簿の数字の分析にとどまらず、武家が経済的に凋落していった経緯や明治維新後の士族が時代にもがく姿も字数が少ないながらも端的に描き出しています。
日本が大きく動いた時代。
それを底辺で支えてきた一日本人がどのように生き抜いたのか。
共々に読み進めてみたいと思います。

作品の章立て

はしがき
「金沢藩士猪山家文書」の発見

第一章 加賀百万石の算盤係

わかっていない武士の暮らし
「会計のプロ」猪山家
加賀藩御算用者の系譜
算術から崩れた身分制度
御算用者としての猪山家
六代 猪山左内鞍之
七代 猪山金蔵信之
赤門を建てて領地を賜る
江戸時代の武士にとって領地とは
なぜ明治維新は武士の領地権を廃止できたか
姫君様のソロバン役

第二章 猪山家の経済状況

江戸時代の武士の給禄制度
猪山家の年収
現在の価値に直すと
借金暮らし
借金整理の開始
評価された「不退転の決意」
百姓の年貢のどこに消えたか
衣服に金が使えない
武士の身分費用
親戚づきあいに金がかかるわけ
寺へのお布施は18万円?
家来と下女の人件費
直之のお小遣いは?
給料日の女たち
家計の構造
収入・支出の季節性
絵にかいた鯛

第三章 武士の子ども時代

猪山成之の誕生
武家の嫁は嫁ぎ先で子を産むのか?
武家の出産
生育儀礼の連続
百姓は袴を着用できなかった
満七歳で手習い
満八歳で天然痘に感染
武士は何歳から刀をさしたのか

第四章 葬儀、結婚、そして幕末の動乱へ

莫大な葬儀費用
いとこ結婚
出世する猪山家
姫君のソロバン役から兵站事務へ
徹夜の炊き出し
大村益次郎と軍務官出仕

第五章 文明開化の中の「士族」

「家族書簡」が語る維新の荒波
ドジョウを焼く士族
廻船問屋に嫁ぐ武家娘
士族のその後
興隆する者、没落する者

第六章 猪山家の経済的選択

なぜ士族は地主化しなかったか
官僚軍人という選択
鉄道開業と家禄の廃止
孫の教育に生きる武士
太陽暦の混乱
天皇・旧藩主への意識
家禄奉還の論理
子供を教育して海軍へ
その後の猪山家

作者

磯田道史(いそだみちふみ 1970年 - )
岡山市出身。岡山市立御野小学校、岡山市立岡北中学校、岡山大安寺高等学校、慶應義塾大学文学部史学科卒業。2002年、同大学院文学研究科博士課程修了。『近世大名家臣団の社会構造』で博士(史学)。日本学術振興会特別研究員、慶應義塾大学、宇都宮大学、大妻女子大学の非常勤講師などを経て、2004年、茨城大学人文学部助教授、2007年、准教授。2008年4月~2011年3月、国際日本文化研究センター客員准教授。2007年4月~2009年3月、読売新聞読書委員。永青文庫評議員。2012年東京歯科大学客員准教授。2012年静岡文化芸術大学文化政策学部准教授。専攻は日本社会経済史。 2003年の著作『武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新』で第2回新潮ドキュメント賞を受賞し、2010年には森田芳光監督によって『武士の家計簿』として映画化された。
2010年、「専門分野である歴史を視聴者にわかりやすく解説し、放送文化の向上と地域活性化に貢献した」として第15回NHK地域放送文化賞を受賞した。

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