桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第93回】

『泥の河』(宮本輝)

開催日時 2013年1月26日(日) 14:00~17:00
会場 勤労福祉会館 和室(小)
西武池袋線大泉学園駅・徒歩3分

開催。諸々コメント。

今月取り上げる本は宮本輝作『泥の河』です。
小栗康平初監督作品として、映像でこの作品に出会った方も少なからずおられると思います。モノクロで表現された映像は多くの人々に郷愁と哀しい感動を与えました。
まだ私の世代が生まれる前の時代。
日本人が今よりもずっと貧しく、けれど力強く生きていた時代。
生きるとは何かを問いかけてくる本作品は、第13回太宰治賞も受賞しています。
※現在購入可能な文庫本には『蛍川』『道頓堀川』と共に「川三部作」として収録されています。

あらすじ

昭和30年夏の大阪。
土佐堀川と堂島川が合流して安治川(あじかわ)となって大阪湾に流れ込む。
3本の橋が架かるその合流地点あたりが物語の舞台。
橋のすぐそばでうどん屋のやなぎ食堂を経営する両親のもとで暮らす信雄。
物語の主人公・信雄は、小学2年生で少し引っ込み思案の性格の少年。

お店の常連客のおじさんが自分の馬と荷車に引かれて死んだ現場で数日後にある少年と出会う。名前は松本喜一。親しくなった二人は、きっちゃん、のぶちゃんと呼びあうようになる。
喜一は母と2歳年上の姉・銀子と3人で船で暮らしていて、橋のたもとに船を移動してきたばかり。父は戦争で負った傷が元で骨髄炎で死んでいた。
喜一少年と友達になったことを両親に告げる信雄。
「夜はあの船に行ったらあかんで」と告げる父。
食堂に来た姉弟を温かくもてなす両親。姉弟も食堂に遊びに来るようになり楽しい時間が流れる。

少年達が心待ちにしていた天神祭りの夜。信雄の母親が喘息の発作を起こしたため、信雄と喜一は二人で祭りに出かける。
はじめてもらったお小遣いを落としてしまった信雄達。露天商の男に罵倒され、喜一は露店のおもちゃを盗んでしまう。それは泥棒だと非難する信雄の機嫌をなんとか取り戻そうとする喜一は、蟹の巣を見せると言って自分の郭舟に信雄を連れてくる。
何もない船内で信雄を喜ばせようと、喜一は自分が育てていた蟹を巣から取り出し、アルコールをかけて火をつけてしまう。びっくりする信雄。次々と蟹に火をつける喜一。
火をつけられた蟹の一匹が舟のふちを伝ってベニヤ板の向こうへ。それを見ていた信雄は喜一の母の姿を見てしまう。

祭りから十日ほど後、信雄の家族は慌ただしく新潟への引越しを決める。
引越しを翌日に控えた日。喜一たち家族の舟は別の場所へ移動をはじめる。
祭りの後一度も会っていなかった信雄は、その舟を追いかける。
舟を追うように現れたお化け鯉。
自分達の引越しのことも忘れて、お化け鯉を知らせようとする信雄。
しかし舟からは返答もなく、信雄の声だけが虚しく響いていた。

作品のシーン

川にかかる橋
やなぎ食堂
男の死

喜一との出会い
お化け鯉
信雄が風邪をひく

信雄 喜一の舟に行く
銀子との出会い
喜一の母の声

沙蚕取りの老人の死

夕食の会話 喜一のこと・新潟の話
喜一と銀子が遊びに来る
喜一の歌を聞く晋平
郭舟の話をする男たち
晋平の手品
ワンピースを着る銀子
信雄 喜一の母と会う
突然入ってくる男
野鳩の雛と豊田兄弟とのけんか
ハトの死骸をポケットに入れる信雄

喜一家族の舟で
貞子の喘息と新潟
舟遊びの人達
米櫃と銀子

信雄と喜一で天神祭に行く
はぐれてしまう二人
お金を落としてしまう
露店の男に罵声を浴びる
おもちゃのロケットを盗んだ喜一 怒る信雄

蟹の巣を見るため喜一の舟に行く二人
舟の中に響く蟹の音
蟹に火をつける喜一
喜一の母と目を合わせた信雄

新潟への引越しが決まる
信雄 喜一の舟に行くが会えない
引越しの前日 喜一の舟が移動を始める
舟に呼び掛ける喜一
お化け鯉が現れる
叫び続ける信雄 静かな舟
曳かれて行く舟とお化け鯉

作者

宮本輝(みやもとてる 1947年 - )
1947年(昭和22年)3月6日兵庫県神戸市生まれ。小説家。本名は宮本正仁。愛媛県、大阪府、富山県に転居。関西大倉高等学校、追手門学院大学文学部卒業。
サンケイ広告社でコピーライターとして働いたが、20代半ば頃から重度の不安神経症(現在のパニック症候群)に苦しんでおり、サラリーマン生活に強い不安を感じていた。
ある雨の降る会社帰り、雨宿りに立ち寄った書店で某有名作家の短編小説を読んだところ、書かれていた日本語が『目を白黒させるほど』あまりにひどく、とても最後までは読み通せなかった。かつて文学作品を大量に読んだことがある自分ならば、もっと面白いものが書けると思い、退社を決め、小説を書き始める。
それでも数年は芽が出ず、生活も苦しくなる。其の折、知人を通じて作家・編集者で「宮本輝」の名付け親でもある池上義一に出会い、作家としての指導を受ける。同時に池上の会社に雇って貰う。
1977年(昭和52年)に自身の幼少期をモチーフにした『泥の河』で、第13回太宰治賞を受賞してデビュー。翌1978年(昭和53年)には『螢川』(「文芸展望」第19号、1977年10月)で第78回芥川賞を受賞し、作家としての地位を確立する。
一時は結核療養のため休筆。
『優駿』で吉川英治文学賞(歴代最年少40歳)、1987年(昭和62年)初代JRA賞馬事文化賞。2009年(平成21年)『骸骨ビルの庭』で第12回司馬遼太郎賞、2010年(平成22年)秋紫綬褒章受章。
代表作に「川三部作」の『泥の河』『螢川』『道頓堀川』、書簡体文学の『錦繍』、大学生の青春を描きドラマ化された『青が散る』、自伝的大河作品の連作などで映画化やラジオドラマ化された『流転の海』、『ドナウの旅人』、『彗星物語』などがある。

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