桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第116回】

『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー)

開催日時 2014年12月20日(土) 14:00~17:00
会場 勤労福祉会館 和室(小) 西武池袋線大泉学園駅・徒歩3分

著者

オルダス・レナード・ハクスリー
(Aldous Leonard Huxley, 1894年7月26日 - 1963年11月22日)
イギリスの作家。後にアメリカ合衆国に移住。彼はヨーロッパにおいて著名な科学者を多数輩出したハクスリー家の一員であった。祖父のトーマス・ハクスリーはダーウィンの進化論を支持した有名な生物学者。父のレナード・ハクスリーは文芸雑誌を担当する文人。長兄のジュリアン・ハクスリーもまた進化論で有名な生物学者で評論家、1946年から1948年までユネスコ事務局長を務めている。異母弟のアンドリュー・フィールディング・ハクスリーはノーベル生理学・医学賞受賞者。息子のマシュー・ハクスリーも疫学者・人類学者として知られている。

1908年14歳の時に医者を志望しイートン校に入学、母親のジュリアが45歳で死去し、妹のロバータもその同じ月に別の事故で死去。
1911年角膜炎を患い失明状態となり退学。後に拡大鏡を使えば文字が読める程度に回復し、1913年にオックスフォード大学のベイリオル・カレッジに入学し、英文学と言語学を学んだ。
翌1914年に第一次世界大戦が勃発するが、オルダスはその視力が原因で兵役を免れる。同時期に失明中の彼の面倒を見てくれていた次兄のノエル・トレヴェリアン・ハクスリーが自殺。
1916年にオックスフォード大学を優等で卒業し、1917年にイートン校の教師となりフランス語を教えるが、1年で退職。

大学卒業後の20代で作家としてデビュー。
1919年にベルギー人のマリア・ニスと結婚、翌1920年に息子マシューが誕生。
1926年に来日。1932年の『すばらしい新世界』で、胎児の頃から生化学的に管理され、洗脳的な教育によって欲求が満たされ管理されていることに疑問すら抱かない市民が生きる管理社会であるディストピアを風刺した。

1937年眼の疾患の治療のためにアメリカ合衆国のカルフォルニア州に移住。
ハクスリーは意識の拡張に関心を持ち、1944年の著書『永遠の哲学』で古今東西の神秘主義者の思想を引用抜粋し、神的な実在を認識した人間の思想を研究した。特にインドの哲人クリシュナムルティとは長年家族ぐるみで親しく交流し深い影響を受けた。精神科医のハンフリー・オズモンドにハクスリー自らが幻覚剤のモルモットとなることを申し出る。1953年の春こうして幻覚剤のメスカリンによる実験が開始された。この時の主観と客観が合一する経験を記述した著書『知覚の扉』を54年に出版し、仏教や神学や西洋哲学にも言及しながら絵画芸術の比較研究を行っている。『知覚の扉』は60年代の意識革命の発端として評価が高く、ハーバード大学の幻覚剤研究者であるティモシー・リアリーの理論の主柱となり、リアリーの後継的な存在であるテレンス・マッケナにも大きく影響を与えた。 ジョン・C・リリーもハクスリーの著作に強い影響を受けている。

1955年、妻マリアが乳がんで死去。1956年イタリア系アメリカ人のローラ・アーチェラと再婚。
晩年には、これまでの神秘主義的な哲学やそのさまざまな分野を縦断する博学を凝縮し、『島』というユートピアを描いた小説を書いた。自著の『島』にモクシャという解脱を誘発する物質が登場していたが、LSDの合成者である科学者のアルバート・ホフマンに『島』を贈呈するとき、「モクシャ剤の発見者ホフマン博士へ」というサインを添えた。

1963年の終わりごろ、ハクスリーが危篤状態になったとリアリーに連絡をする。そして、リアリーはハクスリーに『チベットの死者の書-サイケデリック・バージョン』にもとづいてLSDのセッションをしてくれと頼まれたが、死の際にハクスリーの妻にそれをやるように頼んだ。
1963年11月22日ハクスリーはその死の床で、話すことが出来なかったため妻ローラに対して「LSD, 100 μg, i.m」(LSDを100マイクログラム筋肉注射して欲しい)と書いて渡した。彼女はそれに応えた。二度目にLSDを注射したときには、「軽くて自由、前に、上に」と言い平穏に旅立った。同日に発生したケネディ大統領暗殺事件の為、ハクスリーの死は影が薄くなった。
イーゴリ・ストラヴィンスキーは親しい友人であったが、当時作曲中であった「管弦楽のための変奏曲」をハクスリーの追悼のために捧げ、1965年に初演している。

物語のあらすじ

フォード紀元632年(西暦2540年)、中央ロンドン孵化・条件づけセンターに務める最上層階級アルファに属するバーナードは、少し様子がおかしく、人の集まる場所を避け、恥ずかしさに顔を赤らめる、他の人々には理解できない行動をしていた。そんなバーナードの友人はヘルムホルツ。優秀すぎるがために孤立している男だった。

ある日、バーナードは恋人レーニナと蛮人保存地区へ旅行へ出かけ、そこで生まれ育ったジョンという青年と遭遇した。ジョンは事故で蛮人保存地区に取り残されたベータ・マイナスの女性リンダの息子であり、父親はセンターの所長であることを、バーナードは旅行直前の所長の会話との符合から気づき、出自から蛮人保存地区で孤立していたジョンとリンダを文明社会に連れ帰る。

物珍しさからジョンはいちやく時の人となるが、当然、ジョンがいた蛮人保存地区と、バーナードたちの文明社会では常識がことごとく違うため、摩擦が起きっぱなしである。蛮人保存地区にたまたま残されていたシェークスピアの古典を諳んじるジョンの目にはこの社会はどうしようもない「愚者の楽園」としか見えない。バーナードの社交の見せ物とされ続けることを拒否して自室に閉じこもったジョンは、密かに恋心を抱いていたレーニナの訪問を受ける。しかし、プラトニックな騎士道的恋愛とその後の結婚を求めるジョンを理解できないレーニナは直截なセックスを求め、ジョンはこれを激しく拒絶する。

直後、連絡を受け駆けつけた病院で危篤の母を見舞う。ソーマの快楽に溺れる母リンダを「死を恐れない条件反射教育」のために連れてこられた子供たちに邪魔をされつつ看取ったジョンは怒りに駆られ、病院から町に飛び出してソーマの配給を妨害し、駆けつけたバーナード、ヘルムホルツと共に逮捕される。そして世界統制官ムスタファ・モンドのもとに連れて行かれ、ついにこの世界の全貌を説明された。

世界統制官との問答の後、フォークランド諸島へ島流しとなるバーナードとヘルムホルツとの別れののち、ジョンは都市を離れ田舎の廃屋で一人自給自足の生活を送ろうとするが…。

主な登場人物

バーナード・マルクス(Bernard Marx)
中央ロンドン孵化・条件づけセンターの心理課に勤務する心理学者。本来の階級はアルファ・プラスではあるが、胎児のときに職員の手違いからガンマ階級の姿で生まれてしまった。そのことから劣等感に苦しみ、孤立している。
ヘルムホルツ・ワトソン(Helmholtz Watson)
バーナードの友人でアルファ・プラス階級の感情技術者。完璧にアルファ・プラスな外見の美男子かつ非の打ちどころのない社交家で、感情工科大学創作学部の講師を務める傍らジャーナリストや脚本家としても才能を発揮している非常に優秀な男であるが、それゆえに周囲の人間と違っているという孤独を感じている。
レーニナ・クラウン(Lenina Crowne)
ベータ階級の保育士で、胎児に予防接種を打つ作業をしている。センターのアルファ階級男性のほぼ全員と寝たことがある美女。
ジョン・サヴェジ(John the Savage)
蛮人保存地区で生まれ育つが、シェイクスピアの全作品を愛読している。文明社会に行き、好奇の目を向けられる。「Savage」とは「野蛮人」の意味。
所長(The Director)
中央ロンドン孵化・条件づけセンターの所長でバーナードの上司。名前はトマス(トマキン)。バーナードを疎んじてアイスランドのセンターへ左遷しようとしたが、本人も知らなかった息子ジョンの存在と「父親」になったことを暴露され、失脚。その後の行方は不明。
リンダ(Linda)
ジョンの母親。ベータ・マイナス階級だったが、若い時に所長と蛮人保存地区へ出かけ、一人はぐれた挙句、避妊処理ができなかったことで彼の子供を身篭ってしまった。そのため、保存地区から出られず、しかしインディアンの生活に適応することもできず、年老いてすっかり醜くなった。
ムスタファ・モンド(Mustapha Mond)
西ヨーロッパ駐在統制官で世界統制官の一人。賢明で人間社会に対する洞察に満ち、冷笑的でどこか優しい憂愁さえたたえた哲学的な指導者。

物語に出てくる用語

階級(カースト制度)
大きく分けてアルファ・ベータ・ガンマ・デルタ・エプシロンに分けられる。またそれぞれの階級にプラス、マイナスの区別が存在する。階級ごとに服の色が異なり、階級ごとに就ける職業が定められている。
アルファ(α)、ベータ(β)
知識人、指導者階級。ボカノフスキー法を使わず、一つの受精卵から製造される(生まれる)。顔やスタイルは美形が多く、知的な教育を受けているのでジャーナリストや政府省庁の職員、大学教授などの職業に就いている人間が多い。
ガンマ(γ)、デルタ(δ)、エプシロン(ε)
下層階級。ボカノフスキー法を使い製造される。下の階級に生まれた人間ほど、背が低かったり、鼻がつぶれていたりと容姿がひどくなっていく。さらに階級が下の赤ん坊は、育てる段階から、わざと酸素を送る量を減らしたり、血液にアルコールを混入するなどをして、知能や身体機能を意図的に下げられる。成長中の睡眠教育の段階でもアルファ・ベータ階級とは違う内容の教育がされ、エプシロン階級では延々に労働をしても疑問に思わないように教育を行う。しかし、あらゆる予防接種を受けているため病気になる事は無く、60歳ぐらいで死ぬまで、ずっと老いずに若い。
ソーマ
安定した社会を維持するための要素の一つ。二日酔いなどの副作用のあるアルコール飲料の代わりとして、フォード紀元178年(2086年)に2000人の化学者に研究助成金が支給され、開発された副作用のない薬。アルコールとキリスト教の長所のみを融合させ、宗教的陶酔感と幸福感と幻覚作用をもたらす。アルファ階級からエプシロン階級までのすべての人間が日常的に使用しており、半グラムの錠剤を3錠ほど呑むと「ソーマの休日」の夢世界に入れる。
蛮人保存地区
ニュー・メキシコにある、インディアンが昔ながらの生活をそのまま続けている地区。人口は約6万人。保存地区は電気の流れた鉄線で覆われており、地上からでは出入りができないようになっている。そのためこの地区に入るためには空路でしか入ることができない。
ボカノフスキー法
一つの受精卵から大量の子供を作る方法。プフィッツナーとカワグチという2人の人物によって発見された理論とされている。一つの受精卵から96人までの人間が製造可能。安定した社会の維持のためにはボカノフスキー法による人口の維持は必要不可欠となっている。
睡眠教育法
睡眠時に同じ言葉を繰り返し語りかけることによって行われる教育。この教育方法により階級制度・社会の倫理観などが寝ている間に教育される。基本的にこのとき教育された内容は一生涯忘れることはないとされる。九年戦争以前にもこの睡眠教育法の実験が行われていたが、効果は今ひとつで普及しなかったという。
九年戦争
フォード紀元141年(2049年)に始まったとされる最終戦争。大量の生物化学兵器や大量の爆弾が使われ、世界のあらゆるものが破壊され世界経済は崩壊した。戦争終結後に消費活動の強制政策(国民に毎年一定のものを必ず消費させるノルマ)が取られ、その過程で文化人による『良心的消費拒否運動』が行われたものの、マスタードガスや機関銃などですべて殺されたとされる。その後、当時の大統領は武力では何も変えられないと結論に達し、武力を廃止しそれと同時にフォード紀元の採用と戦争中破壊されずに残っていた博物館(大英博物館など)や歴史的建造物(ピラミッドなど)といった文化的な遺産はすべて閉鎖され爆破された。

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