桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第19回】

『モモ』(ミヒャエル・エンデ)

開催日時 2006年10月28日(土)14:00~17:00
会場 練馬区貫井地区区民館  東京都練馬区貫井1-9-1 ※西武池袋線・中村橋駅から徒歩5分

開催。諸々コメント。

作者のミヒャエル・エンデは『ネバーエンディングストーリー』の原作者としても有名です。
主人公の女の子の名前は『モモ』。
穏やかなその町の暮らしは「時間貯蓄銀行」から来た灰色の男たちによって気がつかないうちに次第に変化していく。
時間を大切にしているはずが時間に追われて殺伐とした人間関係に変わり始めた人達を守るためにモモは時間泥棒と対決して自分たちの時間を取り戻そうと奮闘します。
戦中、戦後を生き抜いてきたエンデはこの物語に何を託したのでしょうか。
時間、会話、癒し、近代化、効率の追求...。
奪った時間でしか存在できない灰色の男達の意味するものも考えさせられます。
ある意味で明快なコンセプトで書かれたこの本は小学生の読書感想文などの課題図書に選ばれることも多く、多くの子供達に読まれてきた作品です。

作者

ミヒャエル・エンデ(1929~1995)
929年、ドイツ南部の町ガルミッシュで生まれる。父はシュールレアリスムの画家エトガー・エンデ。高校で演劇を学び、1950年から俳優として演劇活動をおこない、そのかたわら、戯曲、詩、小説を試作する。
1960年に発表した『ジム・ボタンの機関車大冒険』で1961年にドイツ児童文学賞を受賞。 1970年にイタリアに移住。『モモ』、『はてしない物語』(ネバーエンディングストーリー)などを発表。現代社会を鋭く見つめて描かれた作品は、児童文学の枠を超え、世代や国境を越えて世界中に愛読されている。
『モモ』の日本語版は150万部を突破、ドイツ語版に次いで多く読まれている。
1985年にドイツに戻る。1989年、東京などで「エンデ父子展」が開かれる。同年、『はてしない物語』の訳者佐藤真理子氏と結婚。
1995年8月、シュトゥットガルトにて胃ガンで66歳で逝去。生前、自分のもつほとんどの資料を長野県信濃町に提供。
1991年にエンデ資料を世界で唯一、常設展示する黒姫童話館が開館している。

エンデの思想的背景

『モモ』の執筆:1972年完成
(1)ナチスドイツの時代 (2)シュタイナー理論の影響と批判
(3)ブレスト理論による創作活動
(4)利殖システムを伴わない金融経済、エネルギーシステムの提唱

主な登場人物

モモ
ベッポ(道路掃除夫)
ジジ(観光ガイド)
ニコラ(左官屋)
ニーノ(居酒屋)
リリアーノ(ニーノのふとっちょのおかみさん)
フージー(床屋)
子供たち(パオロ・マリオ・フランコ・マッシーモ 他)
時間泥棒(灰色の男たち)
マイスター・ホラ
カシオペア

作品の章構成

第一部 モモとその友だち
1章大きな都会と小さな少女
2章めずらしい性質とめずらしくもないけんか
3章暴風雨ごっこと、ほんものの夕立
4章無口なおじいさんとおしゃべりな若者
5章おおぜいのための物語と、ひとりだけのための物語

第二部 灰色の男たち
6章インチキで人をまるめこむ計算
7章友だちの訪問と敵の訪問
8章ふくれあがった夢と、すこしのためらい
9章ひらかれなかったよい集会と、ひらかれたわるい集会
10章はげしい追跡と、のんびりした追跡
11章わるものが危機の打開に頭をしぼるとき
12章モモ、時間の国につく

第三部 時間の花
13章むこうでは一日、ここでは一年
14章食べものはたっぷり、話はちょっぴり
15章再会、そしてほんとうの別れ
16章ゆたかさのなかの苦しみ
17章大きな不安と、もっと大きな勇気
18章まえばかり見て、うしろをふりかえらないと・・・
19章包囲のなかでの決意
20章追手を追う
21章おわり、そして新しいはじまり

作者のみじかいあとがき

物語の感想

エンデの思想的背景として彼が青年期を戦中ドイツで過ごしたことが大きく影響していると思われ、彼の創作活動を考えるときこの点を含めて少なくとも3つの要素を考慮してよいと思います。
それは
1)ナチスドイツの時代を生きた経験
2)シュタイナー理論との出会い
3)ブレスト理論による創作活動
その延長に彼のファンタジー作品と利殖を伴わない経済システムへの理想が続いているように感じます。
エンデは講演の中で「モモ」で描いた時間の問題はお金の問題であることを自ら述べており、また作品の中では「時間とは生きることそのもの」との表現があります。
エンデにとって「時間」「お金(経済)」「生命」は同じカテゴリ視されているとみることが妥当と思われます。

ともすればファンタジー作品や童話ではモチーフがデフォルメされ、断定的に描かれることが多々あります。「モモ」もその例外ではありません。
「モモ」が発表された1972年以降、世界中で読まれた70年代は高度経済成長の真っ只中。使い捨て文化が一世を風靡し、人間疎外が社会問題化されたなかで「モモ」の主題は多くの庶民に受け入れられたという時代背景もあります。
ゆとり生活が主流になったかのような感もある現在において、時間の節約と効率化と利息で生きる人達を痛烈に批判した「モモ」の放つインパクトはさほど強くないのかもしれないなぁと思ったりします。
適度なバランス感覚を身につけた現代人には違和感がある作品と映るかもしれません。

しかしエンデの意図はもう少し本源的なところにあると見るのが妥当ではと思います。
エンデは「現在人にはもっと想像力が必要だ」と主張します。今までの経済の成立には常に搾取されるものが原資とされている。それは植民地であり、地下資源であり、第3諸国であり、自然環境である。
利殖経済を含む実態を伴わない諸活動に報酬として与えられる対価は本来存在すべきではないというのがエンデの根源的な思想ではないかと私は見て取っています。

エンデはそれをファンタジー作品に託したのではないでしょうか。「ネバーエンディングストーリー」とは、現代の考えに言い換えれば「持続可能な発展」に合い通じると思います。

話題に出たテーマ等々。

・モモ「いつでもわたしはもういた」
・ほんとうに聞くことができる人は、めったにいない
・ニノとニコラのけんか
・モモがいると楽しい遊びが浮かんでくる
・全員が活き活きと船の探検旅行
・世の中の不幸というものはすべてみんながやたらと嘘をつくことから生まれている
・気がついたときには一歩一歩進ん道路が全部終っとる。
・昔のわしらに会った。ふたりの人間がいた。
・ジジの理屈「詩人だってそうだ」「ひょっとすると本当にあったかもしれないじゃないか」
・有名になり金持ちになりたい夢。
・まじめにこつこつ働くことが大事とは思わなかったジジ。
・ジジはやっぱりジジのままでいたいよ!
・これほど違った人生観を持った二人が本当になかよし
・"それ"は音もなく人目につかずに攻め込み、日一日と深く食い込んでくる侵略軍のよう
・姿は見えても誰も気がつかない
・彼らは灰色をした紳士。灰色の帽子、葉巻、書類かばん。
・ジジの話に翼が生えた
・ブルブル族とビクビク族のくじらの話。
・「大きければ大きいほどいい」
・「すでにごぞんじとは思いますが」「みなさまごぞんじのように」
・もうひとつの地球を作った話
・魔法の鏡の話。
・時間は日常的な一つの秘密
・時間とは、生きること、そのもの。人のいのちは心をすみかにしている。
・灰色の男たちの計画-自分たちの計画を誰にも気づかせないこと
・人生には何もかもがつまらなく思えるときがある
・灰色の男の時間の計算「人生を浪費しておいでだ」
・時間貯蓄銀行は利子まで払うんです
・倹約した時間は一秒ものこらず銀行に入る。あなたの手元には残らない。はじめてみればわかる。
・契約書も署名も書類も何もない。完全な信頼のうえに成り立つ。あなたにまかせます。
・自分ひとりで決めた決定のように思えました
・時間の倹約をはじめた人たちは少なくなった自分の時間に疑問は感じない
・ラジオ、テレビにおどる広告
・ふきげんで、くたびれて、怒りっぽくなっていく時間貯蓄家たち
・余暇の時間さえ無駄なく使おう。本当のお祭りもなくなった。夢は犯罪同然。
・「時間は貴重だ」「時は金なり」
・時間をケチケチすることで、本当は他の何かをケチケチしている
・子どもたちは感じ始める
・時間とは生きることそのもの。人のいのちは心をすみかとしている
・人間が時間を節約すれば生活はやせ細っていく
・古い友だちが来なくなり、かくれ場を求めて遊ぶことができない新しい子供たちがふえる
・「きっとなにかわけがある」「みんなの話が聞きたいよ」
・電化製品とおもちゃをもらう子どもたち
・モモが友人を訪ねて歩く
・モモの前に灰色のおとこが現れる
・次から次へといろんなものを買ってくれば、たいくつなんてしないで済む
・こんなすてきなものがあれば友だちなんていらないだろ?
・自分がすでに戦いのなかに巻き込まれている
・「この人形じゃすきになれない」「そんなことは問題じゃない」
・人間が節約した時間は人間の手には残らない
・我々の数が増えている
・円形劇場に集まった子どもたち
・町の人に気づいてもらえなかった子どもたちのデモ行進
・開かれなかった集会
・灰色の男たちの裁判とそれを目撃したベッポ
・危機が迫るモモの前にカシオペイアが登場
・追跡する灰色の男たちの間隙を縫って進むモモとカシオペイア
・さかさま小路
・どこにもない家に着く
・灰色の男たちの会議-判明する時間貯蓄の秘密
・時間の国-マイスター・ホラーとの語らい
・3人の兄弟のなぞなぞ
・もし人間が死とは何かを知ったらこわいとは思わなくなるだろうね
・人は死を怖がらせるような話のほうを信じたがる
・時間のみなもと
・こちらの時間で1年間眠り続けたモモ
・みんなかわってしまった
・夢見るジジはうそつきジモラモ
・留置場、病院、終ることのない仕事にとりつかれたベッポ
・ファーストフード店のニノ-話したくても話ができないニノとモモ
・ジジの自宅を訪ねる
・ひとことも口をきけなかったモモ。いいたことはあれほどあったのに!
・「そんなのがおもしろいの?」「そういうことは問題じゃないよ」
・それじゃなんの勉強にもならないって言われるんだ
・灰色の男たちと対決することを決意するモモ
・いつかは、おまえが耐え切れなくなるときがくる
・人間なんてものは、もうとっくからいらない生きものになっている

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