桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第65回】

『若草物語』(ルイザ・メイ・オルコット)

開催日時 2010年8月21日(土) 14:00~17:00
会場 西武池袋線大泉学園駅・徒歩3分 勤労福祉会館 和室(小)

開催。諸々コメント。

今回の本は1868年に出版された『若草物語』です。
原作者ルイザ・メイ・オルコットは本人の意思とは異なって本作品を連作として書いており、日本で紹介される本書はその第一部となります。

物語の舞台は19世紀のアメリカ。家族は母親と4人の娘たち。父親は戦地に赴いており、女性だけでつつましくかつ力強く生きていく様子が描かれていきます。そのテーマは「平凡な一家庭の日常茶飯事」。その庶民の生活の描写が多くの読者の心を惹き付け、発売と同時に大ベストセラーになります。その印税でルイザは借金を完済し、家族は豊かな生活を得ます。

原題は“Little Women”。ルイザの父が娘たちをこのように呼んでいたといいます。家族は社会奉仕を優先する父親の生き方のために貧しかったとされます。一応は中流階級だったようでもあり、極貧とはいえないかもしれませんがそうした家庭環境に育ったルイザは多くの友人と家族に恵まれた少女時代を過ごします。

ルイザは30歳のときに志願して南北戦争の北軍に従軍看護婦として野戦病院で働きます。
このときの情景を父に手紙で書き送ります。この手紙が『病院スケッチ』として新聞に掲載されると評判となり、ボストンの出版社から「少女のために諸説を」と執筆依頼が届きます。36歳になっていたルイザは、自分が体験してきた生活を題材に書こうと決意、2ヶ月を要して原稿を書き上げました。
それが本書『若草物語』として後世の私たちまで読み継がれています。

オルコットは語っています。
たとえどんな不幸にあってもくじけてはいけません。明るく朗らかにして自分の仕事に励んでいれば、人からは愛され、友達は集まり、いつのまにか幸福が訪れるものです。
様々な困難にあいながらも、可憐に生き抜いた4姉妹の生き方を読み進めてみたいと思います。

作者

ルイザ・メイ・オルコット(Louisa May Alcott, 1832年11月29日 - 1888年3月6日)
有名な超越主義者(Transcendentalist)であるエイモス・ブロンソン・オルコットとアビー・メイの娘。現在のペンシルベニア州フィラデルフィアであるジャーマンタウンに誕生。1844年にボストンへ移住し父は実験学校を設立、ラルフ・ウォルドー・エマソンやヘンリー・デイヴィッド・ソローらと共に超越主義者クラブに参加した。1840年に学校設立の試みが挫折した後、家族はマサチューセッツ州コンコードのコンコード川沿いにある広さ2エーカーの小屋に移る。ユートピア的共同体であるフルーツランズを経て貸家に住み、母親の遺産とエマソンの援助で購入したコンコードの家「オーチャード・ハウス」に移住。幼少期の教育は非常に独創的かつ革新的で、エマソンやナサニエル・ホーソーン、マーガレット・フラーなどの作家・教育者達からも教育を受けた。
成長するにつれて、オルコットは奴隷制廃止論者、フェミニストとなった。1847年に一家は一週間ほど逃亡奴隷の家に住み、『感情宣言』を賞賛している。家族の貧困のため、彼女は若い頃から臨時採用の教師、針子、家庭教師、家事手伝い、そして作家として仕事をする。彼女の最初の作品はエマソンの娘エレン・エマソンのために書いた『花のおとぎ話』である。
1862~63年に6週間ほどワシントンD.C.ジョージタウンの合衆国病院で看護婦を務めた様子を送った手紙が「コモンウェルス」紙に『病院スケッチ』として掲載され反響を呼ぶ。これに目を留めた出版社からの依頼が『若草物語』につながった。
『若草物語』は、彼女が姉妹達と一緒にコンコードで過ごした少女時代をもとにした半自伝的な話である。『続・若草物語』では、主人公であるマーチ姉妹の大人時代と、それぞれの結婚について、『第三若草物語』はコンコードのオーチャード・ハウスで共に暮らした彼女の甥たちの人物と行動、『第四若草物語』でマーチ家物語が完結する。彼女の後半生の作品は、『昔気質の一少女』、『ジョーおばさんのお話かご』、『8人のいとこ』とその続編『花ざかりのローズ』など、その大部分が『若草物語』と同じ路線をとっている。
『若草物語』においてはジョーのキャラクターがオルコット自身をモデルにしたものであったにもかかわらず、オルコットはジョーと異なり生涯結婚しなかった。
1879年に彼女の妹のメイが亡くなり、彼女は当時2歳のメイの娘を引き取った。
オルコットは女性参政権の主張者となり、コンコードで初めての投票権をもつ女性となった。
健康状態の悪化に反して、オルコットは残りの生涯も物語を書き続け、最後には南北戦争中の労働時に発症した水銀中毒の後遺症で倒れた(彼女は腸チフス患者の治療のためにカロメルを使用していた)。ルイーザ・メイ・オルコットは1888年3月6日、死の床に伏していた父を見舞った2日後にボストンで逝去した。

『若草物語』作品の章立て

19世紀後半のアメリカを舞台に、マーチ家の四人姉妹を描いた物語。
時は南北戦争時代、父が黒人奴隷解放のため北軍の従軍牧師として出征し女ばかりとなりながらも、慎ましく暮らす一家の約1年を描く。父の無事と帰還を祈り、優しく堅実な母親に見守られ、時に導かれ、マーチ家の四人姉妹メグ、ジョー、ベス、エイミーは裕福ではなくとも中流階級の家庭として明るく仲睦まじく暮らしている。家庭に起こる楽しい出来事や悩み、事件、そして大きな試練が姉妹達を少女から「リトル・ウィメン」へと成長していく。
原題となっている「リトル・ウィメン」は、著者の父親が実際に娘たちを呼称するのに用いた言葉。単なる幼い少女ではなく一人の立派な女性であるという意味合いで用いられていた。第1作と続編においては、聖書や『天路歴程』が姉妹たちの導きの書であり、これに関する記述が多々見られる。一家の行うフィランソロピー(慈善活動)もそれらの影響を受けているものと考えられる。

第一章 巡礼ごっこ
第二章 楽しいクリスマス
第三章 ローレンス少年
第四章 重荷
第五章 おとなり同士
第六章 ベス「美の宮殿」を見出す
第七章 エイミーの屈辱の谷
第八章 ジョー、魔王に会う
第九章 メグ、虚栄の市に行く
第十章 P.C.とP.O.
第十一章 こころみ
第十二章 ローレンス・キャンプ
第十三章 空中楼閣
第十四章 秘密
第十五章 電報
第十六章 手紙
第十七章 小さきまごころ
第十八章 暗い日
第十九章 エイミーの遺言書
第二十章 打ち明け話
第二十一章 ローリーのいたずらとジョーの仲裁
第二十二章 楽しき野辺
第二十三章 マーチ伯母さん問題を解決す

作品の主な登場人物

メグ 四姉妹の長女。本名はマーガレット。母の名前を引き継いでいる。16~17歳。非常に美しく女性らしいがやや保守的な性格。金持ちの家庭の家庭教師となってマーチ家の生計を助けている。まだ家庭が裕福だった頃の事を姉妹の中では唯一覚えているため、美しい衣服や装飾品や社交界の話を見聞きする度辛く思い、虚栄心に悩まされる。モデルは作者の姉、アンナ・ブロンソン・オルコット。
ジョー 四姉妹の次女。本名はジョゼフィーン。背が高く手足が長く痩せている。15~16歳。マーチ家の「息子」と自ら標榜している。容姿はこれと言って優れてはいないが、唯一の女らしい部分は美しく豊かな髪。だが父が前線で病となり、母が看護にでかけるための旅費を助けるためにその髪を売ってしまう。父の伯母にあたる金持ちのマーチおば宅へ通い、お相手をする事でマーチ家の生計を助けている。ボーイッシュな性格だが裁縫が上手で、趣味は読書。作家を目指して自分でも小品を書いている(『ジョーおばさんのお話かご』)。短気でカッとなりやすい事に自分でも苦慮する。作者ルイザ自身がモデル。
ベス 四姉妹の三女。本名はエリザベス。黒髪に青い目の非常に内気、しかし内に強さを秘めた少女。13~14歳。音楽が大好きで、ピアノをよく弾く。ピアノがきっかけとなって老ローレンス氏との間に友情が芽生えた。おとなしく愛情深く、子猫や小鳥や人形を可愛がって面倒を見ている。自分とは正反対の性格のジョーと特に仲良し。内気な性格に加えて病弱なため、学校には通わず自宅で勉強し、家事を手伝っていた。他の姉妹のやり残した仕事も率先して片付け、かといって報酬を得ようとは思わない。物語の途中で猩紅熱にかかるが家族の必死の看病もあって一命を取り留める。
モデルは作者の妹の三女エリザベス・スーウェル・オルコット。実際に病弱で、若草物語の執筆が始まった時には既に他界していた。作者が姉妹の中で最も愛していたと言われている。
エイミー 四姉妹の四女。金髪の巻き毛が自慢のおしゃまな12歳。貴婦人らしく振舞うのが好きで、覚えたての難しい言葉を使いたがるが、こっけいな言い間違いをする。美術の才能があり、写生をするのが好きである。生意気盛りでジョーとはよくぶつかってしまう。自分の鼻の低さを気にしている。モデルは作者の妹の四女アバ・メイ・オルコット。
ミセス・マーチ 四姉妹から尊敬され慕われる賢母。聖書や『天路歴程』を礎とした道徳・愛の実践を自らが慈善活動を行うことによってやさしく教える。姉妹は何かトラブルに見舞われると、この母に教えを請い、それは姉妹たちが成人してからも続く。
ハンナ マーチ家の家政婦。
マーチおばさん 四姉妹たちの大おばで、四姉妹の父ミスター・マーチは甥にあたる。未亡人で自らの子供は赤ん坊の時に亡くしており、ミスター・マーチが破産した際に、娘たちの誰かを養子として引き取ろうと提案したが、これを拒否されたため一時は立腹していた。裕福ではあるが足が不自由なため、ジョーが身の回りの世話をする仕事をしている。一見偏屈でジョー達を閉口させるが、内心では身内であるマーチ家の人々に愛情を抱いており、特にやんちゃなジョーを気に入っている。
セオドア・ローレンス(ローリー) マーチ家の隣人で、非常に裕福なローレンス家の一人息子。15~16歳でジョーと同い年。祖父と2人、使用人に囲まれて立派な屋敷に住んでいるが、近所づきあいがなく孤独な毎日を送っていた。メグの友人サリーの屋敷で開かれた舞踏会で、手持ち無沙汰にしていたジョーと出会う。その後あけっぴろげなジョーの態度に打ち解け、意気投合して、以後マーチ家の人々と親しく交流する。ドーラという愛称で呼ばれるのを嫌い、姉妹たちには自らをローリーと呼ばせる。セオドアの愛称でテディとも呼ばれる。両親は早くに亡くなっているが、母の音楽の才能を引き継いで自らもピアノを弾く。性格は快活で茶目っ気があり紳士的、誰からも好かれるが、やや無鉄砲でいたずら好きな面もある。
老ローレンス セオドア・ローレンスの祖父。一見気難しそうに見える老人だが、根は非常に優しく親切で、マーチ家では特にベスを愛していた(彼の亡くなった孫娘の面影を重ねてもいた)。ローリーの両親の結婚には反対で、それと関係してローリーが音楽をやることを嫌う。ローリーに対しては厳格でもあるが、一面では非常に甘い。何かとマーチ家の力になっていく。
ジョン・ブルック ローリーの家庭教師として登場。マーチ家四姉妹がローリーや彼の友人らとキャンプへ出かけた際にメグと出会い求婚する。ミスター・マーチが負傷した際、ミセス・マーチの付き添いでミスター・マーチが収容された病院へ同行し、しっかりとその責任を果たした。

作品の感想

メグ、ジョー、べス、エイミーの四姉妹が成長する姿と、様々と起きてくる出来事が描かれる小説です。
様々な苦難や難問もきっと乗り越えていくだろうという期待を裏切らない物語でもあり、長い時代を経て多くの読者が勇気と希望を得たのだと思います。

物語の舞台は19世紀後半のアメリカ、時は南北戦争時代。四姉妹の父は黒人奴隷解放の志をもって北軍の従軍牧師として出征。残された女ばかりの一家が慎ましく暮らす一年間描かれます。ちなみに本人達は相当貧しい生活になったと思っているようですが世間から見ればまだまだ余裕のある中流階級の生活を送っているのも事実。このあたりは意図して意識の違いを描いているのか、作者自身が貧しい生活と思っていたのかははっきりしません。

天路歴程(てんろれきてい)The Pilgrim's Progress

イギリスのジョン・バニヤン(バンヤン、バニャンとも)による寓意物語。
プロテスタント世界で最も多く読まれた宗教書とされ、特にアメリカへ移住したピューリタンへ与えた影響は『若草物語』にも見える。「天路歴程」は史上最もよく知られた寓話であり、非常に多くの言語に翻訳された。 プロテスタント伝道団は聖書に次ぎ最優先で天路歴程を翻訳するのが普通だった。
"City of Destruction"(「破滅の町」)に住んでいたChristian(クリスチャン:基督者)という男が、「虚栄の市」や破壊者アポルオンとの死闘など様々な困難な通り抜けて、「天の都」にたどり着くまでの旅の記録の体裁をとっている。

リトル・ウィメンによる『天路歴程』

原題となっている「リトル・ウィメン」は、著者の父親が実際に娘たちを呼称するのに用いた言葉。単なる幼い少女ではなく一人の立派な女性であるという意味合いで用いられていたという。第1作と続編においては、聖書や『天路歴程』が姉妹たちの導きの書となっていて、これに関する記述が多々見られる。一家が行うフィランソロピー(慈善活動)もそれらの影響を受けていると考えられる。

『天路歴程』は、イギリスのジョン・バニヤンによる寓意物語であり、プロテスタントの間でよく読まれた宗教書である。プロテスタントの伝導活動においては聖書に次いで翻訳され、アメリカへ移住したピューリタンの多くが愛読していたという。
「破滅の町」に住んでいたChristian(クリスチャン)が、「虚栄の市」や破壊者アポルオンと戦いを繰り広げたのちに「天の都」にたどりつくというストーリーである。
本書は「平凡な一家庭の日常茶飯事」がテーマとされた(新潮文庫「解説」より)とおり、普段の生活で起こりうる出来事が綴られていく。それは少女たちの成長の軌跡であり、当時の社会風潮の描写となっている。また若き世代の時に感じていた率直な視点を思い起こされる出来事も数多くちりばめられている。
その意味では主な読者である青春期を送っている現在の私達にとっても、自然な形で共感できる小説になっている。時代を超えて、人が抱える悩みや思いは普遍的なテーマが多いという表れかもしれない。

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