桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第66回】

『ガリバー旅行記』(ジョナサン・スウィスト)

開催日時 2010年9月25日(土) 14:00~17:00
会場 西武池袋線中村橋駅・徒歩5分 サンライフ練馬 第二和室

開催。諸々コメント。

今回の本は「ガリヴァー旅行記」。
多くの方が小学生の頃に一度は目にした作品ではないかと思います。
船乗りのガリヴァーが嵐に遭遇し漂着した浜辺で細いロープで体を固定されているシーン。気がつくと周りには15cmほどの人間が...。
おおよそこんなイメージですよね(^_^)。
本作品は4部構成になっています。
1:リリパット(小人国)への航海記
2:プロプディンナグ(大人国)への航海記
3:ラピュタ、バルニバーニ、グラブダブドリッブ、ラブナグ及び日本への航海記
4:フウイヌム国への航海記
少年少女向け書籍では小人国と大人国だけを訳している本もあって全編を知らない方もいるかもしれません。ちなみに宮崎駿監督作品『天空の城ラピュタ』のラピュタの名称は本作品に由来しています。

作品の構成は比較的シンプルです。
船医(最後の航海では船長)になったガリヴァーが未知の国に漂着して自国(イギリス)の考えや風習、社会秩序と全く異なった生き方を体験するというもの。作品の根底、スフィストの思想の前提にはイギリス社会への強烈な批判があることはよく知られています。
4つの国への渡航記を通してスフィストが訴えたかった批判、風刺とは何だったのか。スフィストの人生、その後の世界の動向等も踏まえながら読み進めてみたいと思います。

作品の背景

アイルランドの風刺作家ジョナサン・スウィフトにより、仮名で執筆された風刺小説。原版の内容が大衆の怒りを買うことを恐れた出版社により、大きな改変を加えられた初版が1726年に出版され、1735年に完全な版が出版された。正式な題名は、『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』"Travels into Several Remote Nations of the World, in Four Parts. By Lemuel Gulliver, First a Surgeon, and then a Captain of several Ships"である。

本書は出版されて間もなく非常な人気を博し、それ以来現在に至るまで版を重ね続けている。イングランドの詩人ジョン・ゲイは1726年にスウィフトに当てた手紙の中で、「内閣評議会から子供部屋に至るまで、この本はあらゆる場所で読まれている」と述べている。

医師レミュエル・ガリヴァーの筆を装い、スウィフトは一連の奇妙な文化への旅行記の報告を試みた。この試みの中には、当時一般的だった旅行記の形式を模しながら、イギリス人の社会や慣習に批判的な視点を与えるために慎重に設計された、異国や野蛮な文化への明白な捏造が含まれている。その数年前に公開されたばかりで世間の絶賛を博したダニエル・デフォーによる空想旅行記『ロビンソン・クルーソー』の方向性を『ガリヴァー旅行記』は継承している。

彼のイギリス人、およびイギリス社会への批判の要因として、当時のイギリスの対アイルランド経済政策により、イギリスが富を享受する一方で、彼の故郷であるアイルランドが極度の貧困にあえいでいたことがあげられる。また、スウィフトは『ガリヴァー旅行記』の出版以前にパンフレットを用いてアイルランドの民衆にイギリス製品のボイコット運動の呼びかけを行っており、イギリス政府から危険視される存在であった。出版社が出版に慎重な姿勢を取った一因である。
今もなお本作は、全歴史を通じた偉大かつ不朽の風刺文学の一つとして、これまでに書かれた最高の政治学入門書の一つとして、確固として成立している。法における判例上の対立、数理哲学、不死の追求、男性性、動物を含めた弱者の権利等、今日の数多くの議論が、本作には予見されていた。

作品の感想

『ガリヴァ旅行記』は1700年前後のイギリスを舞台に描かれた航海記のひとつです。
時代はいわゆる「大航海時代」。当時はすでにアメリカ大陸に入植してアメリカは未知の世界ではなくなっていました。イギリスから見て西側はアメリカ大陸、東側はオランダ交易に代表されるように日本までが彼らヨーロッパ人の「領海」となっていて、未知の世界はアメリカ大陸を越えた西の世界、日本を越えた東側の世界が残されていました。オーストラリア大陸はその象徴で大陸の西半分までしか認知されていなかった時代でした。

そんな大航海時代の真っ最中。西欧各国では虚実入り交じった数多の航海記が出版されていたわけで『ガリヴァ旅行記』はそうした雑多な出版物のなかから一躍ベストセラーになった作品です。

作者のジョナサン・スウィストについては精神的にいびつな面があり素行も良くないように長く言われてきましたが、その後の研究によって必ずしもそうではないという学説も出てきています。新潮文庫版には日本語訳者である中野好夫氏の解説の冒頭で「手に負えない不良者」「傲岸不遜」と書かれており、日本におけるスウィストのイメージを定着させることに大きく影響していると思われます。そもそも日本における悪評の因は夏目漱石の評に影響されるところが大きいと指摘する研究者もいて、中野氏の解説の中でも夏目漱石の言葉が引用されています。
本書が『ロビンソンクルーソーの大冒険』に刺激されて執筆されたことは有名です。
ロビンソンクルーソーの物語がイギリス様式の生活や資本主義的生き方を肯定的なベースとしていることに対して、ガリヴァの物語が否定的に描かれているのは実に興味深い点です。

作品の構成

本作品は4篇構成になっています。簡単に概要を紹介します。

【1】リリパット(小人国)への航海記
航海の途中で嵐に遭遇し漂着した土地で目を覚ますと浜辺で細いひもで体を固定されている。回りには15cmほどの小さな人間達がいた。そこはリリパットと呼ばれる小人達の国だった。海を挟んで近くにブレフスキュ国というやはり小人達の国があり、交易もするが交戦状態にあった。ガリヴァは逆らうことはせずリリパットで軟禁状態で暮らし始める。リリパット国に恩義を感じるガリヴァはブレフスキュ国の艦船を捕縛することでその義理を果たす。しかしその勢いに乗じてブレフスキュを攻め込めという皇帝には反論したため次第に疎んじられていく。皇妃の住む宮殿が火事の際に放尿で鎮火させたこと、ガリヴァの食料によって国家財政が急激に逼迫したことが重なり、ガリヴァを餓死させることが決定される。
親しい高官によってその事実を知らされたガリヴァはブレフスキュ国訪問を口実に国外に逃れ、そこで手に入れた手漕ぎボートでイギリス帰国を目指して出帆。運よく英国船に拾われイギリス帰国を果たす。小型の牛馬を見せ物にして大いに収入を得る。

【2】プロプディンナグ(大人国)への航海記
わずか2ケ月半のイギリス滞在で再び航海に出たガリヴァは、今度は身長が約12倍ある大人の住む国に上陸する。大人に追われた仲間達はボートで逃げ出しガリヴァ一人が取り残される。ここはブロブディンナグ国と称する、アメリカ大陸から突き出した半島の国。海と険しい山で隔てられた下界との交流がまったくない完全に孤立した土地。大人達は農業で生計を立てている。ガリヴァは農夫の男に捕われ、見世物になって町の市に出て行く。そこで王妃に買われたガリヴァは、王妃や女官達の愛玩具として扱われる。ガリヴァに興味を持った国王は、イギリスの社会制度や政治、戦争、金融制度について質問し、率直な疑問を投げつける。領地を訪れる際に同行させられたガリヴァは王妃達が海岸で遊んでいる隙に鷹らしき鳥に箱ごとつかみ上げられてしまい、大海原に落とされてしまう。運よく通りがかった英国船に助けられてイギリス帰国を果たす。

【3】ラピュタ、バルニバーニ、グラブダブドリッブ、ラブナグ及び日本への航海記
ラピュタは天空に浮かぶ科学者の国。磁力によってその浮力を保ち、磁鉱石を有するバルニバーニ国の上空を征圧しその領域を治めている。生産活動はすべて地上のバルバーニ国に行なわせるという構図です。ラピュタ国は全員が科学者。学士院では様々な研究が行なわれ、その理論でバルニバーニでは施策を行なわれるがそのために庶民達は塗炭の苦しみを味わっている。
その後帰国を希望するガリヴァは魔法使いの小島グラブダブドリッブに渡り降霊術で歴史上の偉人達と会話し、彼らのいい加減さを暴露、後世の歴史的評価など当てにならないと主張する。大きな島国ラブナグ国に渡ったガリヴァは不死人間ストラルドブラグ(個人ではなく不死人間の総称)に会う。不死の実態を見て、死とは救済なのだと悟る。
その後ガリヴァは、日本の東端の港ザモスキ(観音崎)に着き、日本の皇帝に江戸で拝謁。踏絵を免除してほしいと嘆願、ラグナグ王の親書等によって許される。ナンガサク(長崎)まで護送されたガリヴァはオランダ船でイギリスに帰国を果たす。


【4】フウイヌム国への航海記
帰国したガリバーは故郷イギリスで5ケ月間暮らしていましたが、妊娠中の妻を残して旅に出ます。
途中で乗り込ませた臨時の船員が海賊で船を乗っ取られます。何週間も監禁された後に見知らぬ島に放り出されました。
そこは「馬(フウイヌム)の国」。馬が人間のような立場で主人になっていました。 容姿が猿である以外は人間と同じヤフーが家畜になっていました。ガリバーは主人達と同様に厚遇されて2年がすぎます。
ある時ヤフーを撲滅することが決まり、ガリバーは船を作って島を出ます。 上陸した島でポルトガル人と遭遇し、故郷イギリスに帰国しました。妻からキスされると、忌まわしいヤフーに接吻されたと気絶しそうに。 ガリバーは馬を2頭購入。馬といる時だけが安堵するようになりました。

作者

ジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift、1667年11月30日 - 1745年10月19日)
イングランド系アイルランド人の諷刺作家、随筆家、政治パンフレット作者、詩人、司祭。
作品に『ガリヴァー旅行記』『穏健なる提案』『ステラへの消息』『ドレイピア書簡』『書物合戦』『桶物語』などがある。
スウィフトは英語の散文で諷刺作品を書いた古今の作家のなかでも第一級であった。
当初すべての著作をレミュエル・ガリヴァー、アイザック・ビッカースタッフ、M・B・ドレイピアなどの筆名でもしくは匿名で発表した。
「過去の過ちを認めるのを恥じてはならない。それは昨日より今日のほうが賢くなった証なのだから。」など、数々の名言が残っている。

参考にさせていただいた書籍

最後に、今回私が参考にさせていただいた書籍を紹介させていただくと...
富山太佳夫著『「ガリヴァー旅行記」を読む』岩波書店(岩波セミナーブックス)
『ヴィジュアル版 ガリヴァー旅行記』
この2冊が俊逸です。
富山氏の本は岩波セミナーでの連続講座の内容を本にしたもの。講演当時の最新研究成果を踏まえつつ、予見を排除した論究には目を見張るものがあります。特に『ガリヴァ旅行記』が書かれた当時の社会風俗や極端に表現されてきたスウィフトの評価に対する分析はなるほどと納得できます。
『ビジュアル版』はいわゆる絵本タイプではなく、細部に至るまで原作に忠実にカラーイラストを起こしたものです。日本語訳に沿う形で各ページが構成されており、4編全てが収録されていますので読み応えもあり、文庫版などではイメージできにくくて理解が進まなかった箇所もよくわかるように構成されています。この日本語訳にはちょっとびっくり。文字数は何分の一かになっているのですが、無駄がなくかつ必要なポイントをもれなく要約している。完全日本語訳とあわせて読むとその完成度の高さに脱帽すること間違いありません。
他にも「あなたの知らないガリバー旅行記」「スフィフト伝」等も参考に読みましたが上記の2冊を特にお奨めしたいと思います。

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