桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第76回】

『モンテ・クリスト伯』(アレクサンドル・デュマ)※前半

開催日時 2011年8月20日(土) 14:00~17:00
会場 勤労福祉会館 和室(小)
西武池袋線大泉学園駅・徒歩3分

開催。諸々コメント。

この8月はアレクサンドル・デュマの大作『モンテ・クリスト伯』を取り上げます。 毎回の本を考える際に、いつも候補に挙がりながらも「長い!」という理由から見送ってきた一冊です。 夏休みという時期でもあり、敢えて長編に挑戦するということで今回のテーマと致しました。
現在最も入手しやすい岩波文庫版で全7巻(!)。「えっ本当にこれを読むの?」という声も聞こえてきそうですが、「鍛えの夏」にふさわしくチャレンジする心で読破を目指していただきたいと思っております。

作品の舞台は1815年。
主人公エドモン・ダンテスはマルセイユの一等航海士。ナポレオン一世の流刑先エルバ島に立ち寄ったダンテスはナポレオン側近のベルトラン大元帥からパリのノワルティエという人物に宛てた手紙を託されるところから物語は始まります。
出世を約されたダンテスへの同僚からの妬みと謀略によって無実の罪で逮捕されるダンテス。 政争にも巻き込まれたダンテスは生涯出ることができないとされるシャトー・ディフに送還されてしまう。
人生の希望を失ったダンテスは自殺を図るが死に切れない。そんな時、隣りの独房に収監されている老人ファリア神父と出会う。
ファリア神父を人生の師と仰ぎ万般の教えを仰ぐようになっていくダンテス。彼のその後の人生は驚くような展開が待っている...。

小学生、中学生の時に『岩窟王(がんくつおう)』のタイトルで抄訳本を読んだ読者も多いと思います。
モンテ・クリスト伯となっていくダンテスの思いとその原動力、原点はどこにあったのか。じっくりと読んでみたいと思います。

物語のあらすじ

全117章立ての長編大作。
作品の舞台は1815年。
主人公エドモン・ダンテスはマルセイユの一等航海士。ナポレオン一世の流刑先エルバ島に立ち寄ったダンテスはナポレオン側近のベルトラン大元帥からパリのノワルティエという人物に宛てた手紙を託される。
無事帰国し出世を約されたダンテスは同僚からの妬みと謀略によって無実の罪で逮捕される。
ダンテスを取り調べたのは検事代理のヴィルフォール。ヴィルフォールに対してダンテスは「自分はベルトラン大元帥から私的な手紙を預かっただけだ」と託された手紙を見せるが、手紙の宛先であるノワルティエはヴィルフォールの父親だった。
手紙の内容はナポレオン軍の再上陸に備えて準備をすすめるよう命じる命令書であった。
「王政復古の世の中において身内にナポレオン支持者がいることは身の破滅につながる」と考えたヴィルフォールはダンテスを政治犯が収容されるマルセイユ沖のシャトー・ディフ(イフ城)に投獄し、ダンテスが一生牢から出られないように画策しその企ては見事に実行された。
個人的な思惑によって不幸なめぐり合わせが重なり生涯出ることができないとされるシャトー・ディフに送還されてしまったダンテス。人生の希望を失ったダンテスは自殺を図るが死に切れない。
そんな時、思わぬ出来事が起こり同様に独房に収監されていた老人ファリア神父との出会いが実現する。
重病によって死期が迫ったファリア神父はモンテ・クリスト島に隠されている財宝の秘密をダンテスに託す。その財宝の話はファリア神父を狂人を思わせていたものだった。
ファリア神父の死に乗じて脱獄を果たしたダンテスはモンテ・クリスト島の財宝を見つけ出しモンテ・クリスト伯として表舞台に登場する。投獄から14年が経過していた。
ファリア神父の推理が正しいことを知ったダンテスは、今や成功して時の人となっていたダングラール、フェルナン、ヴィルフォールに近づき、自分の富と権力と知恵を使って復讐していく。

主な登場人物

エドモン・ダンテス / モンテ・クリスト伯爵(Edmond Dantès / le Comte de Monte Cristo)
マルセイユの船乗りだったが、無実の罪で14年間も投獄され、その間に父親が他界してしまい、婚約者も奪われてしまう。獄中でファリア神父に出会い、彼の知識を受け継ぎ、同時に莫大な財宝のありかも教えられる。ファリア神父が死んだ際に彼の死体と入れ替わって脱獄に成功。脱獄後はモンテ・クリスト島の財宝を見つけ莫大な富を手に入れると、自身を陥れた者たちへの復讐の準備を始める。
数年後モンテ・クリスト伯としてパリの社交界へと現れ、仇敵との再 会を果たす。そして、かねてより準備していた復讐を実行していく。
メルセデス(Mercédès)
ダンテスの婚約者。ダンテスが投獄された後、ダンテスを陥れた張本人とは知らず、従兄のフェルナンと結婚する。しかし、結婚後もエドモンのことを忘れることができずにいた。
フェルナン・モンデゴ / モルセール伯爵(Fernand Mondego / le Comte de Morcerf)
ダンテスの恋敵。メルセデスの従兄で、カタルーニャ系フランス人の漁師だったが、軍隊に入った後、母国や恩人を次々に裏切って陸軍中将にまで出世。貴族院議員の地位まで手に入れる。
ダングラール(Danglars)
もとは船会社の会計だったが、ダンテスの出世を妬み、フェルナンをそそのかして嘘の密告をさせる。ダンテスが逮捕されてからはスペインに渡る。スペインの銀行で頭角を現し、フランス有数の銀行家にまでのしあがって男爵の地位を得る。
ヴィルフォール(Villefort)
マルセイユの検事代理。自己保身欲の塊であり、自分が出世するためには他人を犠牲にすることを厭わない。検事総長にまで出世するが、ダンテスにそそのかされた夫人が「秘薬」を用いて犯罪を犯し、さらに自身の過去の過ちもベネデットによって暴露されてしまう。
アルベール(Albert)
メルセデスとフェルナンの間に生まれた青年。許嫁にダングラールの娘ウージェニーがいるが、アルベールもウージェニーもあまり乗り気ではない。 ローマで友人のフランツと旅行中にモンテ・クリスト伯と出会い、その後山賊たちの手から伯爵によって救出されたことから彼を慕うようになる。伯爵がパリへ旅行に来る際に彼を自宅へ招待し両親に伯爵を紹介する。物語の中盤以降の重要なキャラクターの一人である。
ベネデット(Benedetto)/アンドレア・カヴァルカンティ(Andrea Cavalcanti)
ヴィルフォールとダングラール夫人の間に生まれた不義の子供。生後すぐ庭に埋められたが、ヴィルフォールに恨みを持つベルトゥッチオ(後にモンテ・クリスト伯の執事)により助けられ、ベネデットと名付けられる。しかし非行に走り、同居していたベルトゥッチオの義姉を殺害して逃亡した。
モンテ・クリスト伯に探し出され「幼くして行方不明になったカヴァルカンティ家の嫡子」として社交界に入り、ダングラールの娘と婚約するが、カドルッスを殺害した容疑で逮捕される。裁判でヴィルフォールが過去に行った悪事を白日の下に晒した。
ファリア神父(l'Abbé Faria)
イタリアの神父。 かつて仕えた貴族の家に伝わる古文書を解読して、モンテ・クリスト島に隠された財宝のありかを突き止めるが、発掘に出発しようとした矢先にその動きがイタリア独立の企てに関係があるものと誤解され、シャトー・ディフに収監される。脱獄を企てトンネルを掘っているうちに50フォート離れた独房のダンテスと出会う。各種の言語や知識、不撓不屈の精神を兼ね備えた人物であり、ダンテスに持てる知識の全てを教える。
やがて衰弱し死期を悟ると、ダンテスに財宝のありかを託して息を引き取る。心臓に持病があり、彼が使っていた「秘薬」はダンテスが引き継ぐが、これが後にダンテスの復讐に利用される事になる。
カドルッス(Caderousse)
ダンテスの隣に住んでいた仕立て屋。根は良い人間だが気が弱いために、ダングラールの悪巧みを知りながら真実を言えなかった。ダンテスが逮捕されてからは没落し安宿の主人になる。ブゾーニ神父に変装したダンテスからダイヤモンドを贈られるが欲を出して犯罪に手を染め、投獄されてしまう。獄中でアンドレア・カヴァルカンティ(ベネデット)と出会い、後に2人で脱獄。しばらく放浪していたところ、アンドレアがモンテ・クリスト伯のもとで裕福にしているのを見て、彼にたかるようになる。
エデ(Haydée)
ギリシアのジャニナ地方の太守、アリ・パシャの娘。フェルナンの裏切りによって父親を殺され、自らも奴隷身分に落とされてしまう。しかしモンテ・クリスト伯爵によって救出され、以後、出身にふさわしい扱いを受ける。貴族院でフェルナンの罪を告発し、フェルナンの失脚に一役買う。モンテ・クリスト伯爵を心から愛している。
マクシミリアン・モレル(Maximilien Morrel)
騎兵大尉。 ダンテスの恩人である船主の息子。モンテ・クリスト伯爵からは実の息子のように可愛がられ、エデとの結婚を望まれるが、彼自身はヴィルフォールの娘ヴァランティーヌとの愛を貫く。その矢先、恋人のヴァランティーヌが「秘薬」で毒殺されかかるという事件が起き、結局ヴァランティーヌは死亡してしまい、彼は自殺を考えるまでに人生に絶望してしまうが、ヴァランティーヌの死は彼女に危険が及ばないようするために伯爵が仕組んだ偽装であった。
ヴァランティーヌ(Valentine)
ヴィルフォールの先妻の娘。マクシミリアンとは恋人同士。後妻の息子であるエドワールに比べ母親の家系が上流で、家長である祖父に可愛がられていた事もあって、相次ぐ毒殺事件の犯人に疑われる。
門衛/カヴァルカンティ少佐
フランツ
ルイジ・ヴァンパ

幸せな人生 エドモン・ダンテス

作品の舞台は1815年。フランス革命の最中に、フランスを代表する港湾都市マルセイユから物語は始まります。
主人公はエドモン・ダンテス。モレル商会に所属する船舶に乗船する20歳の若き一等航海士です。
物語の冒頭で、航海の途中で船長が病死し代行で船舶を指揮したダンテスは、船長の遺言に従ってナポレオン一世の流刑先エルバ島に立ち寄り、ナポレオン側近のベルトラン大元帥からパリ在住のノワルティエ氏宛の手紙が託されたことが語られます。
この逸話がその後のダンテス青年の人生を大きく変えていきます。帰港したダンテスは人生の春を謳歌していました。
次の船長をモレル商会から約束され、美しい恋人メルセデスとの結婚も目の前。年老いた父への孝行もできて多くの友人からも祝福される人生を送っていました。

ダンテスを陥れる3人の男

しかしそう思っていたダンテス本人の思惑とは別に、彼に嫉妬する輩も現実にいました。ダンテスの人生にとって負の方向に関係する重要人物として3人の人間が登場します。

一人目は、同僚の船乗りで経理を担当していたダングラール。
二人目は、恋人メルセデスの幼馴染のフェルナン(後のモルセール伯爵)。
そして三人目は、ポナパルト派の活動家ノワルティエを父に持つ法律家ヴィルフォール。

ダングラールは自分が船長になれない原因がダンテスがいるからだと思い、ダンテスを追い落とそうと画策する。
フェルナンは、ダンテスさえいなければメルセデスは自分の恋人になると思い、ダングラールの才略に乗っかってしまう。
いずれも自分自身の栄達や恋愛感情という自己中心的な感情のままに行動する。ダンテスの人生など考える余地はない。
彼らは「ダンテスがエルバ島に寄ったのはナポレオンの密書を受け取るためであった」として当時の王政に反逆する者であるとの密告を行った。

その告発状を元に、ダンテスを取り調べたのは検事代理のヴィルフォールだった。ヴィルフォールに対してダンテスは「自分はベルトラン大元帥から私的な手紙を預かっただけだ」と託された手紙を見せ、ヴィルフォールも冤罪であることを見抜く。
しかしダンテスを釈放する直前に手紙の宛先が「ノワルティエ」という人物であることを知りヴィルフォールは愕然とする。ノワルティエはヴィルフォールの父親だったのだ。
手紙の内容はナポレオン軍の再上陸に備えて準備をすすめるよう命じる命令書であった。

王政復古の世の中において身内にナポレオン支持者がいることは身の破滅につながると考えたヴィルフォールは、一切の不都合をダンテスに覆い被せて、政治犯が収容されるマルセイユ沖のシャトー・ディフ(イフ城)に投獄しダンテスが一生牢から出られないように画策する。
その企ては見事に実行された。

老人ファリア神父との出会い

三人の恣意的な思惑によって不幸なめぐり合わせが重なり、生涯出ることができないとされるシャトー・ディフに送還されてしまったダンテス。
人生の希望を失ったダンテスは自殺を図る。しかし、死に切れない。
完全に生きることの意味も希望も失ったそんな時、脱獄を果たそうと独房から穴を掘り進めてきた老人ファリア神父と出会う。
ダンテスはファリア神父と共に脱獄を実行しようと計画を進めるが、ファリア神父が重篤の状態になったことで脱獄を断念してファリア神父に添い遂げようとする。
死期が迫ったファリア神父は、モンテ・クリスト島に隠されている財宝の秘密をダンテスに託す。その財宝の話はファリア神父をして回りの人間達から狂人と思わせていたものだった。

脱獄。モンテクリスト伯として。

ファリア神父の死に乗じて死体と入れ替わって脱獄を果たしたダンテスは、モンテ・クリスト島の財宝を原資とし、モンテ・クリスト伯としてパリの社交界に登場する。
そのとき投獄から14年が経過していた。
ファリア神父の推理が正しいことを知ったダンテスは、今や成功して時の人となっていたダングラール、フェルナン、ヴィルフォールに近づき、自分の富と権力と知恵を使って復讐を開始する...。

このあたりまでが前半部分となります。

悪意によって翻弄された14年間

人生順風満帆であった20歳の青年に、突然襲いかかってきた人生のめぐりあわせ。
不幸といえば実に不幸。
本人には何も落ち度がないといえばそう言える不運な人生。
こうした災難に直面した時に私達はいったい何ができるのかと自問自答してしまいます。しかし多くの場合、答えらしきものは何も出てこないのではないかとさえ思います。
ましてやダンテスの場合は、自分がどのような理由で投獄されたのかすら思いも及ばない状況で14年が過ぎていきました。
それも当初は数日で釈放されるだろう、いやもう少しかかるかもしれない、でも数カ月もあれば自由になれる...。そう思いながら、次第に希望が薄れていく人生を送っていく。
その状況を想像すると胸がつぶされてしまうような、息苦しさを感じてしいますう。 真綿で首を締め付けられるようなという表現がありますが、そんな感じかもしれない。

師匠ファリア神父への思いが復讐の憎悪へ転落する時。

自分の明日を思い描くこともできない。
なぜ自分がここにいるのか。
自分にとってひとつも理解することもできない現実。
おそらく理解することすら許されていないのではとしか思えない状況。
自分自身が思いも及ばない出来事が起こるのが人生なのだと。

そうしたときに、物事には道理があり、何かが起こるにはその原因があると教えてくれたのがファリア神父だったのではないかと、私は推察します。
ここにダンテスにとってのファリア神父をして人生の師匠とした大きな要因をみることができると思うのです。
一般的には、人生万般の教授をしてくれたからファリア神父は師匠であると思われてきた節があります。しかしその程度のこと(決して学問全般の教授が軽いと言っているわけではありません)でダンテスが師匠を定めたというのは物語の流れからいっても違和感があります。事実、日本語訳本でいっても全7巻の中で学問の教授を受けたことは数行しか書かれていません。
人生の生きる意味や目的を完全に見失っていたダンテスに、物事にはすべて原因と結果があることを教え、目を開かせたがゆえに、ファリア神父は人生の師匠に足り得たのでしょう。
そして、自分が投獄された裏に秘められた事実があることを知ったダンテスは、自分自身を不条理に不幸に陥れた3人の輩を心の底から憎いと思った。できることならば復讐してやりたいと思ったのです。
この憎悪の念が、その後のダンテスの人生を方向づけてしまいます。

ここから先は後半に移っていきます。 続きは9月実施【第77回】へ。

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