桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第104回】

『クリスマス・キャロル』(ディケンズ)

開催日時 2013年12月21日(土) 14:00~17:00
会場 サンライフ練馬 和室(2) 西武池袋線中村橋駅・徒歩5分

開催。諸々コメント。

今月の本はこの季節にふさわしい『クリスマス・キャロル』です。
欧米ではとても有名で「クリスマスブックス」として子供達に読み継がれてきた作品です。 日本では読んだことがない方もそれなりにおられると思いますが、短編でわかりやすいストーリーですので、12月のこの時期に是非一度読んでみていただきたいと思って取り上げてみました。

親しみやすいストーリー

ある年のクリスマスの前夜。
冷酷な商人スクルージの前に7年前に亡くなった元共同経営者マーレイの亡霊が現れ、スクルージの人生を悔い改めさせるために明夜から3人の精霊が現れると告げます。

この精霊は
「過去のクリスマスの精霊」
「現在のクリスマスの精霊」
「未来のクリスマスの精霊」です。
精霊はそれぞれの時代の、彼が縁をしたそれぞれの場面に、スクルージを連れていきます。

かつてどんな思いで生きてきたのか。
自分はどんな思いで仕事をしてきたのか。
過去の出来事を目の当たりにして、スクルージは忘れ去っていた自分自身の気持ちを思い出します。
そして、冷徹に接してきた身近な人達に謝罪し、施しの人生に劇的に転換していきます。

ある意味、とてもわかりやすいハッピーエンドの物語です。

実際には難しい生命変革

作品の冒頭で、スクルージがどれほど冷酷で強欲な商売人であるか書かれていますが、実はそれほど歪み切った人間ではないと思います。
スクルージは、まず最初に「過去のクリスマスの精霊」によって、自身の若かりし時代に連れて行かれますが、その時代に到着するとまもなく、スクルージは当時の気持ちを思い出して涙を流し始めます。
実に、素直で感じやすい生命の持ち主と言えるでしょう。
人間というのは本質的には素直なものなんだということが言いたいのかも知れないかもなぁとと思いつつも、「あれっ?スクルージって強欲な歪んだ性格じゃなかったの?」と思ってしまいそうな場面でもあります。

では現実の人間は?というと、自分の過去の姿を見せられたくらいでは改心などしない人が多いのではないかと思ってしまいます。
「世間を知らなかった頃は純粋だったんだよ」
「様々な経験を繰り返せば、邪悪な人間も多いことを知るんだよ」
「現実の生活は親切な心だけでは生きていけないしね」
等々、様々な声が聞こえてきそうな気もします。

現実の社会では、全くその通りだと思いもします。
その一方で、西洋社会では子供達を中心に連綿とこの作品が読み継がれてきたことも、また事実でもあります。
善を施せば必ず良い結果がもたらされる。
そこには、人間の善性を信じ切ることの大切さも含まれていると思います。
しかし一方でジギルとハイド的な2面性を克服できないという現実も横たわっているように感じられてなりません。

長年かけて形成されてきた人間の生命の傾向性というものは、ちょっとやそっとでは変えることができないものです。その人の「生命のくせ」とでも言うのでしょうか。変えたつもりでも、いつの間にか元に戻っている...。そんな無意識ともいうべき生命の傾向性ですが、自身が変革するためには劇的に変えなければならない瞬間があるのだとも思います。

変革は自分の決意次第 心こそ大切

一方で、しょせん心というものは自分の気持ち一つでどうにでもなるとも言えます。
他人から強制される環境であれば少し話が違うとも言えるかもしれませんが、それであったとしても自身の心までは壊されることはできない。
かつてガンジーが発した心の叫びでもあります。

白か黒か。
善か悪か。
人間の生命や人生そのものは、そんな二者択一ではない。
人生の当事者である自分であっても、自分がどう感じているか、どういう人生を送りたいのか、はっきりと自覚できないようなことのほうが多いようにも感じます。
かつて多くの先人が話してきたように、Yes-No、是か非かを求められる物事であっても、多くの場合は1対ゼロやゼロ対1のように明確なことはそれほど多くはない。
その内面においては「49対51」と「51対49」あたりを行ったり来たりすることが多いのではないか。
決して諦めることなく、また出てしまった結果に紛動されることなく、自分の思う決意を忘れずに地道に前進し続けることが人生そのものではないか。
私は、常々そのように思うことがあります。

また、一人一人のそうした心の動きを感じてこそ、多くの人達と触れ合って生きていくことができるのではないかと思います。

クリスマスの淵源を考える

ちなみに当日の参加メンバーから「この作品はキリスト教的な教示を伝えるためという側面もあるのでしょうか」という発言もありました。
クリスマスはキリストの降誕(誕生)を記念する日とされていますので、そのように受け止める向きもないわけではないと思いますが、必ずしもキリスト教の教示のための作品というわけでもないと思います。

そもそもクリスマスがどのように西洋の家庭で行なわれてきたのか。
そのあたりを知ることから始めるとよいのではと思います。
今回はそこまでは論じることはしないでおこうと思いますので、興味のある方は調べてみるとおもしろいと思います。

作品のあらすじ

作品の主人公は、エベネーザ・スクルージという初老の商人で、冷酷無慈悲、エゴイスト、守銭奴、人間の心の暖かみや愛情などとはまったく無縁の日々を送っている人物。
ロンドンの下町近くにスクルージ&マーレイ商会という事務所を構え、薄給で書記のボブ・クラチットを雇用し、血も涙もない、強欲で、金儲け一筋の商売を続け、隣人からも、取引相手の商人たちからも蛇蝎のごとく嫌われている。
7年前の共同経営者のジェイコブ・マーレイの葬儀でも、彼への布施を渋り、まぶたの上に置かれた冥銭を持ち去るほどであった。

明日はクリスマスという夜、事務所を閉めたあと自宅に戻ったスクルージは、7年前に亡くなったマーレイ老人の亡霊の訪問を受ける。
マーレイの亡霊は、金銭欲や物欲に取り付かれた人間がいかに悲惨な運命となるか、生前の罪に比例して増えた鎖にまみれた自分自身を例としてスクルージに諭し、スクルージが自分以上に悲惨な結末を回避し、新しい人生へと生き方を変えるため、3人の精霊がこれから彼の前に出現すると伝える。
スクルージを訪ねる3人の精霊は、「過去のクリスマスの霊」、「現在のクリスマスの霊」、そして「未来のクリスマスの霊」である。

過去の精霊は、眩く輝く頭部に蝋燭の火消し蓋のような帽子を持った、幼くも老成した表情をした霊。スクルージが忘れきっていた少年時代に彼を引き戻し、孤独のなかで、しかし夢を持っていた時代を目の当たりに見せる、また青年時代のスクルージの姿も見せ、金銭欲と物欲の塊となる以前のまだ素朴な心を持っていた過去の姿、そしてかつての恋人との出会いからすれ違いによる破局を示す。スクルージは耐え切れなくなり、彼から帽子を奪い無理矢理被せて光景を消した。

次に出現するのは現在のクリスマスの精霊。スクルージが見上げる程の長身に冠とローブを纏い燃え盛る松明を持った、クリスマスの御馳走と贈り物に囲まれた霊である。「私には1800人以上兄弟がいるが、会ったことはないか」と豪語する。彼は、スクルージをロンドンの様々な場所に導き、貧しいなか、しかし明るい家庭を築いて、ささやかな愛で結ばれたクラチットの家族の情景、伯父を呼べなかったことを惜しみながらも知人達と楽しい夕食会をしているフレッドの姿を見せる。
またクラチットの末子ティムが、脚が悪く病気がちで、長くは生きられないことを示す。スクルージがそれにうろたえると、彼が寄付を頼みに来た紳士に対して発した「余分な人口が減って丁度いい」「牢屋や救貧院はないのか」等の言葉を自身、またローブの下の「無知」「貧困」の子供達の口から投げかける。

現在の精霊と共に世界中を飛び回って見聞を広めたスクルージは、疲れ切って眠る。そして再度目覚めると、そこには真っ黒な布に身を包み、1本の青白く細い手だけを前に差し出した、不気味な第3の精霊・未来のクリスマスの精霊がスクルージを待っている。

スクルージは、評判の非常に悪い男が死んだという話を聞くが、未来のクリスマスには自分の姿がない。評判の悪い男のシーツに包まれた無惨な死体や、その男の衣服まではぎとる日雇い女。また、盗品専門に買い取りを行う古物商の老人や、その家で、盗んできた品物を売りに老人と交渉する3人の男女の浅ましい様などを見る。ここでスクルージは、その死んだ男が誰なのかを確認することはできなかった。

また、クラチットの末子ティム少年が、両親の希望も空しく世を去ったことを知る。そして草むし荒れ果てた墓場で、見捨てられた墓碑に銘として記されていた自らの名をスクルージは読む。

スクルージは激しい衝撃に襲われる。しかし、クリスマスの始まる夜明けと共に、彼が経験した悪夢のような未来が、まだ変えることができる可能性があることを知る。彼はマーレイと3人の精霊達に感謝と改心の誓いをし、クラチット家に御馳走を贈り、寄付を再会した紳士達に申し出、フレッドの夕食会に出向く。そしてその翌日、クラチットの雇用を見直すとともに彼の家族への援助を決意する。
のちにスクルージは、病気も治ったティムの第二の父とも呼べる程の存在となり、「ロンドンで一番クリスマスの楽しみ方を知っている人」と言われるようになるのだった。

参考文献

ちなみに比較的わかりやすくておもしろいと思う本を紹介します。
『誰も知らないクリスマス』舟田詠子作(朝日新聞社)
『サンタクロースの謎』賀来周一(講談社+α文庫)

今回初参加の松浦さん、ありがとうございました。
明年も継続して開催してまいります。
良いお年をお迎え下さい。

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