桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第127回】

『冷血』(トルーマン・カポーティ)

開催日時 2015年11月28日(土) 14:00~17:00
会場 勤労福祉会館 和室(小)
西武池袋線大泉学園駅・徒歩3分

開催。諸々コメント。

1959年11月。カンザス州ホルカムという村で一家四人が惨殺される事件が起きました。
作者のトルーマン・カポーティは5年を超える歳月を費やして根気強くこの事件を追跡します。カポーティは『ティファニーで朝食を』の作者として知られていますが、本書が彼の最後の作品となっており、この作品自体がカポーティの人生に少なからずの影響を与えたことも想像に難くない。
公の記録の収集分析と関係者へのインタビュー取材を中核としてノート6000ページに及ぶ資料を収集し、そのデータから丁寧に事件を浮かび上がらせていきます。

被害者はクラッター一家。リヴァーヴァレー農場を営むメソジスト派の敬虔なキリスト教徒であり、その不幸は突然に訪れます。
犯人は2人組でディックとペリーという青年。二人は刑務所で出会い、出所後にこの事件を計画し実行しました。
この事件に関係する一人一人の来し方を丁寧に描写することによって、自然と事件の本質に迫っていきます。

クラッター家の人々はどうして殺されなければならなかったのか。
なぜディックとペリーは人殺しをしてしまう人生を歩んでしまったのか。
捜査に関わった人達の捜査手法と心模様。
そして死刑の是非、取材者のモラルまで問題を提起してきます。
ノンフィクション小説の草分け的作品として知られた本作品を一緒に読み進めたいと思います。

作品の背景

1959年に実際に発生した殺人事件を作者が徹底的に取材し、加害者を含む事件の関係者にインタビューすることによって、事件の発生から加害者逮捕、加害者の死刑執行に至る過程を再現した。カポーティ自身はこのような手法によって制作された本作をノンフィクション・ノベルと名づけた。
その後、ノンフィクション・ノベルの手法を使った作品が次々と他の作家によって発表された。
1970年代はゲイ・タリーズ(『汝の父を敬え』)が、1990年代ではジョン・ベレント(『真夜中のサバナ』)などがノンフィクション・ノベルの書き手として著名。
日本では佐木隆三の『復讐するは我にあり』がこのカテゴリーに含まれる。本作の手法はジャーナリズムの世界にも取り入れられ、ニュー・ジャーナリズムと呼ばれた。
作者は自分と同じように悲惨な境遇に育った加害者の1人に同情心を寄せ、「同じ家で生まれた。一方は裏口から、もう一方は表玄関から出た。」という言葉を残している。

この作品の取材中に、作者は加害者との交流を深めるが、「加害者を少しでも長く生きさせたい」という気持ちと「作品を発表するために、早く死刑が執行されて欲しい」という2つの感情の葛藤にさいなまれた。
『冷血』は作者にさらなる富と名声をもたらしたが、以後、作者は作品を1つも完成出来なかった。表題の「冷血」は特にこれといった理由もなく、何の落ち度もない家族を惨殺した加害者を表していると言われているが、表向き加害者と友情を深めながら、内心では作品の発表のために死刑執行を望んでいた作者自身を表すのではないかという説もある。

作品のあらすじ

1959年11月16日、カンザス州のとある寒村で、農場主の一家4人が自宅で惨殺されているのが発見された。農場主はのどを掻き切られた上に、至近距離から散弾銃で撃たれ、彼の家族は皆、手足を紐で縛られた上にやはり至近距離から散弾銃で撃たれていた。あまりにもむごい死体の様子は、まるで犯人が被害者に対して強い憎悪を抱いているかのようであった。 しかし、被害者の農場主は勤勉かつ誠実な人柄として知られ、周辺住民とのトラブルも一切存在しなかった。農場主の家族もまた愛すべき人々であり、一家を恨む人間は周辺に1人もおらず、むしろ周辺住民が「あれほど徳行を積んだ人びとが無残に殺されるとは……」と怖れおののくほどであった。
事件の捜査を担当したカンザス州捜査局の捜査官は強盗のしわざである可能性も視野にいれるが、女性の被害者には性的暴行を受けた痕がなく、被害者宅からはほとんど金品が奪われていないなど、強盗のしわざにしては不自然な点が多かった。
そもそも農場主は現金嫌いで支払いは小切手で済ませることで有名な人物であり、被害者宅に現金がほとんどないことは周辺住民ならば誰でも知っていることであった。
事件の捜査を担当したカンザス州捜査局の捜査官たちは、事件解決の糸口がつかめず、苦悩する。しかし、犯人を特定するのに有力な情報がもたらされたのをきっかけに、捜査は急速に進展し、加害者2名を逮捕することに成功する。
そして、加害者2名は捜査官に対して、この不可解な事件の真相と自らの生い立ちを語り始めた。

主な登場人物

クラッター一家
・主人ハーバート
・妻ボニー
・長男ケニヨン
・三女ナンシー
ヴィック クラッター家の使用人
ボビー・ラップ
スーザン

ペリー・エドワード・スミス
・父
・母
・兄 ジミー
・姉 ファーン(ジョイ)
・姉 ジョンソン夫人(バーバラ・ボーボー)

ディック(リチャード・ユージーン・ヒコック)
アルヴィン・アダムズ・デューイ
フロイド・ウェルズ

作者

トルーマン・ガルシア・カポーティ(Truman Garcia Capote, 1924年9月30日 - 1984年8月25日)
1924年 アメリカ・ルイジアナ州ニューオリンズで、父アーチ・パーソンズ、母リリー・メイ・フォークの息子として生まれた。出生時の名前はトルーマン・ストレックファス・パーソンズ。
両親は彼が子供の時に離婚し、ルイジアナ、ミシシッピー、アラバマなどアメリカ合衆国南部の各地を遠縁の家に厄介になりながら転々として育った。その中には高齢者同士の孤立世帯や精神障害をもつ高齢者もあり、その当時の思い出は、『誕生日の子どもたち』という短編集に収められている。
引越しの多い生活のため、ほとんど学校に行かず、独学同様に勉強した。母親は後年ジョゼフ・ガルシア・カポーティと再婚し、その後自殺した。

彼はアラバマ在住当時、後年の女流作家ハーパー・リーと幼なじみで、リーの代表作『アラバマ物語』中の登場人物ディルは彼がモデルである。
ちなみにこの作品は、映画化されてよく知られたものになり、原作自体も学校の教材として取り上げられることも多い。

17歳で「ザ・ニューヨーカー」誌のスタッフになる。
19歳の時に掲載された最初の作品『ミリアム』でオーヘンリー賞を受賞し、「アンファン・テリブル(恐るべき子供)」と評される。
23歳で初めての長編『遠い声 遠い部屋』を出版し、若き天才作家として注目を浴びた。
その後は中編『ティファニーで朝食を』が映画化されヒットするなど、1作ごとに華やかな話題をふりまき映画にも出演し、ノーマン・メイラーとともに作家としては珍しくゴシップ欄の常連になるなど、公私の両面で話題を振りまいた。
1966年に発表した『冷血』では、実際に起きた一家殺人事件を題材にすることにより、ノンフィクション・ノベルという新たなジャンルを切り開いた。
晩年はアルコールと薬物中毒に苦しみ、テレビで不可解な発言を行うなど奇行が目立ち始め、執筆活動も『冷血』以降は長編を一度も書き上げることがなく公私共に没落していく。
遺作となった長編『叶えられた祈り』で事実を交えたかたちで上流社会の頽廃を描いたことにより、彼が懇意にされていたセレブリティからの反発を招き、作品も未完に終わった。
1984年8月25日にカリフォルニア州ロサンゼルスの友人ジョーン・カーソンのマンションで心臓発作で急死し、カリフォルニア州ウェストウッドのウェストウッド・メモリアルパーク墓地に埋葬された。

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