桂冠塾

開催内容 桂冠塾【第131回】

『審判』または『訴訟』(カフカ)

開催日時 2016年3月26日(土) 14:00~17:00
会場 サンライフ練馬 第二和室 西武池袋線中村橋駅・徒歩5分

開催。諸々コメント。

カフカの代表作のひとつ『審判』。
別の日本語訳として『訴訟』があります。
元となるカフカ全集は編集のやり方等から3種類あり、それによって日本語版も違いが出ているという説明がなされていますが、実際に読んでみると小説の大意が変わってくるほどの差は気にならないと思います。
それよりも大きな違いになってくるのが、章毎にばらばらに残されていた遺稿をどの順番に並べて読むのかという点になります。

元々『審判』は、未完成の草稿段階の遺稿のみが残っている作品です。現在各地で読まれている章立ては、遺稿の管理を託されたブロート氏によるものが一つの基準になっています。

作品の冒頭で、ある日の朝に主人公ヨーゼフ・Kは突然逮捕されます。Kは猛然と抗議をしますが、2人の監視人と監督は自分は自分の役割を果たしているだけだとしか言わず、逮捕の理由すら告げられることはありません。
その一方で逮捕されても日常生活は今までと変わりなく送れます。
違ってくるのは、頻繁に裁判に出廷する旨の連絡が入ることと、裁判が開廷される日時には行かなければならないことくらいです。

次の週の日曜。Kの第1回目の裁判が行われます。
町はずれのみすぼらしい建物の中に裁判所はあります。
Kはぎりぎりの時刻に建物につきますが、裁判が行われている部屋がなかなか見つからず1時間5分の遅刻をしてしまいます。
しかし第1回の裁判の場に至っても、告訴された理由も、誰によって告訴されたのかさえ明らかになりません。
Kは感じている不満を一気に訴えますが、そのことによって状況が好転することもありません。
被告人になったことを知った叔父の紹介で弁護士を依頼することになりますが、裁判の進め方、請願書を作成しようとしない姿勢に疑問を抱き始めます。

異様に思える登場人物の役割。
裁判所に関係する人達の腑に落ちない言動の数々。
勤務する銀行では直接の上司になるのだろうか支店長代理とのぎくしゃくとした人間関係。

未完成の故なのか、はたまたカフカの狙いによる効果なのか、章毎に微妙に感じる違和感が読む側の人間の気持ちを少しずつ不安にさせる。
果たしてカフカは『審判』で何を言おうとしていたのだろうか。

作者

フランツ・カフカ(Franz Kafka)
フランツ・カフカ(Franz Kafka, 1883年7月3日~1924年6月3日)は、現在のチェコ出身のドイツ語作家。プラハのユダヤ人の家庭に生まれ、法律を学んだのち保険局に勤めながら作品を執筆、常に不安と孤独の漂う、夢の世界を思わせるような独特の小説作品を残した。
その著作は数編の長編小説と多数の短編、日記および恋人などに宛てた膨大な量の手紙から成る。
生前は『変身』など数冊の著書が知られるのみだったが、死後に友人マックス・ブロートによって未完の長編『審判』『城』『失踪者』を始めとする遺稿が発表されてから再評価を受け、特に実存主義から注目されたことによって世界的なブームとなった。現在ではジェイムズ・ジョイス、マルセル・プルーストと並び20世紀の文学を代表する作家と見なされている。

物語のあらすじ

第1章 逮捕:
銀行の支配人ヨーゼフ・Kは、30歳の誕生日の朝見知らぬ2人組の訪問を受ける。2人はKに、彼が逮捕されていることを告げ、自分たちは監視人であると語る。Kはいったいどんな罪で逮捕されたのかと聴くが、監視人は関知しないという。Kは隣室に連れて行かれ、そこで監督だという男と話をする。Kは自分がいかなる罪も犯していないと述べ、この扱いは不当であると言い立てる。監督によれば、逮捕はされたもののこれまで通り勤めに出ていいという。そうしてよく見れば、傍らには同じ職場の人間が立っている。Kは彼らに伴われながら、半時間の遅刻で銀行に向かう。

グルーバッハ夫人との対話 ついでビュルストナー嬢: ※単独の章になっている訳もあり。
その夜、Kは職場から帰宅し、家主のグルーバッハ夫人と言葉を交わす。その際、夫人が隣室のビュルストナー嬢の男関係を勘繰るような発言をしたため、Kは気分を損ねる。夜半、ビュルストナー嬢が帰宅し、Kは隣室を訪れて彼女の部屋が勝手にKの審理に使われてしまったことについて謝罪する。ビュルストナー嬢は隣人の大尉が聞き耳を立てていることを恐れてKを追い返そうとするが、Kは彼女に乱暴に口付けし、その場を去る。

第2章 最初の審理:
やがて電話で通告があり、Kは日曜日に審理に向かう。通告が曖昧だったためKは目的地に着くまで苦労し、ようやく古いアパートの一室にたどり着く。中には大勢の人間が詰め掛けており、Kは低い壇上で逮捕の不当さや手続きのずさんさをうったえ、聴講人たちを仲間に引き入れようとする。しかし壇を降りてみると、彼らの胸には例外なく役所のバッジが付けられており、彼らは一人のこらず役人側の人間であったことがわかる。Kはののしり、皮肉を言って出て行く。

第3章 ひとけのない法廷で 学生 裁判所事務局:
翌週も同じ場所に向かってみると、以前にKを部屋の中へ案内した若い女がおり、今日は審理は行なわれないという。Kは女と話をし、彼女に魅力を感じて誘惑するが、後から登場した若い法科の学生に邪魔立てされ、彼女を連れて行かれてしまう。Kが腹を立てながらドアの前にたたずんでいると、ふと近くに「裁判所事務局入り口」の標識を見つけ、この安アパートの屋根裏に事務局があるらしいと悟る。Kは裁判所の下働きをしている、先の女の夫に案内され事務局を見学する。長い廊下が待合室になっており、そこから各事務局として使われている屋根裏部屋に通じている。Kは次第に気分が悪くなり、局員に支えられてその場を後にする。

第4章:ビュルストナー嬢の女ともだち ※未完の章とする訳もあり。
Kはビュルストナーと親密になりたいと思うがうまくいかない。そのうち彼女の部屋にフランス語教師の女性モンタークが同居を始める。Kはビュルストナーを話題にモンタークと言い争いになる。

第5章 鞭打人:
数日後、Kは職場のガラクタ部屋で3人の男に遭遇する。そのうち2人はKの逮捕の際にやってきた監視人のフランツとヴィレムであり、もう一人は黒い革服を着た見知らぬ男である。監視人たちはKの食事や下着を横領したかどで、これから鞭打ちの刑を受けると言う。Kは見逃してやるように言うが、鞭打人は聞き入れずに監視人たちの服を脱がす。鞭を打たれた監視人の叫びが響きわたり、Kは職場の同僚に知られないようにあわててドアを閉め、叫び声を聞いてやってきた小使をごまかす。翌日になっても監視人のことがKの頭から離れず、Kは小使にガラクタ部屋を早く片付けるように言う。

第6章 叔父 レニ:
ある日、Kのもとに裁判の話を聞きつけた叔父カールがやってくる。彼の学校仲間に弁護士をしているフルトという人物がおり、彼に紹介してやれるという。すぐに2人でフルトのもとを訪れ、病に伏せっているフルトに事情を話す。その場にはちょうど裁判の事務局長を務める人物が同席していた。しかしKはフルトの女中レニとの情事に夢中になってしまい、その間に自分の立場を有利にする機会を逃したことで叔父から叱責されてしまう。

第7章 弁護士 工場主 画家:
その後も裁判の進展する様子が見られず、Kは弁護士に任せていられなくなる。そのような折、仕事場に客として現れた工場主から法廷画家ティトレリを紹介され、なにか有利な情報が得られないかと考えて彼のもとを訪ねる。彼の話では、自分は本当の自由に対しては無力であり、仮の無罪か、または訴訟を低い段階にとどめたまま引きずっていくかどちらかの場合にしか協力できないと言う。Kは結論を保留しながら立ち去り、帰り際に粗末な絵を大量に買わされる。

第8章 商人ブロック 弁護士の解任:
Kはついに弁護士フルトを解雇することに決め、彼の家に向かう。彼の家では同じく弁護士を頼んでいた商人ブロックと会い、Kは彼を女中レニの愛人ではないかと疑い、不愉快な思いをする。Kはフルトに会って自分の決意を話し、フルトは裁判の進行に時間がかかっていることについて弁解をする。続いてブロックが部屋に入ってくると、弁護士の態度は一変し、ブロックに対し奴隷を扱う主人のような態度を取る。

第9章 大聖堂にて:
Kは職場で、重要なイタリア人の顧客を街の名所に案内する役を命じられる。Kはイタリア語文法書と名所アルバムを持参し、大聖堂でこのイタリア人と待ち合わせるが、時間が過ぎてもイタリア人は現れない。Kが大聖堂の中に入ると、教誨師が説教壇の上からKの名を呼びかける。そしてKに裁判のことについて次々に質問し、掟についての一つの挿話を語って聞かせる。

第10章 最後:
31歳の誕生日の前夜、Kは2人組の処刑人の訪問を受ける。Kは郊外の石切り場に連れて行かれ、そこで心臓を一突きにされる。Kは処刑人に見守られながら、「犬のようだ!」と言って死んでいく。

未完の章:
エルザのもとへ
母を訪ねる
検事
その建物
支店長代理との戦い
断片(叔父と劇場から出て)

作品執筆の背景

『審判』は1914年の8月に書き始められた。この際カフカはまず冒頭の「逮捕」の章と、終章にあたる「最後」の章をほぼ同時に書き上げている。9月末までに3分の2ほどを書き上げたがやがて行き詰まり、10月には執筆を進めるため職場から2週間の休暇を取っている。しかしこの休暇の間にも執筆が進まず、カフカはこの間に『審判』を脇において短編「流刑地にて」と『失踪者』の一部を書き上げた。
『審判』は翌年1月、最終的に未完のまま放棄された。

カフカは『審判』に着手する2週間前、恋人フェリーツェ・バウアーとの婚約を解消している。婚約解消の際、両者の友人を交えてホテルの一室で会談が行なわれ、カフカは日記でこの会談の様子を「法廷」と表現していた。エリアス・カネッティはこの恋人との経緯が作品に反映されていると考え、カフカがフェリーツェに宛てて書いた膨大な量の手紙を検証しつつ『審判』を論じている。

最初に『審判』を刊行したマックス・ブロートは、各章や断片を再構成し10章のまとまった作品として発表した。カフカの草稿ノートには作品全体のタイトルはつけられておらず、ブロートは生前のカフカとの会話に基づき『審判 (Der Prozeß)』のタイトルをつけた。その後日記などに書かれていたカフカ自身の表記を考慮し、1990年の手稿版全集ではDer Proceß、1997年の歴史批判版全集ではDer Processの表記が用いられている。

「掟の門前 (Vor dem Gesetz)」

作品中「大聖堂にて」と題する章で、主人公Kが教誨師から短い物語を聞かされる場面があり、カフカは生前この挿話を「掟の門前 (Vor dem Gesetz)」の題で独立した短編作品として発表している。
初出は1915年の『自衛』誌で、その後1920年に作品集『田舎医者』にも収録された。
田舎から一人の男がやってきて、掟の門の中へ入ろうとする。掟の門は一人の門番が守っており、今は入れてやれないと言う。また仮に入ったとしても、部屋ごとに怪力の番人が待ち受けていると説明する。男は待つことにし、開いたままの門の脇で何年も待ち続ける。その間に男は番人に何度も入れてくれるよう頼み、そのために贈り物をするなどして様々に手を尽くす。そうするうちにいつしか他の番人のことを忘れ、この門番ひとりが掟の門に入ることを阻んでいるのだという気になる。
やがて男の命が尽き、最後に門番に対して、なぜ自分以外の誰も掟の門に入ろうとするものが現れなかったのだろうかと聞く。この門はお前ひとりのためだけのものだったのだ、と門番は答え、門を閉める。

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